詭弁・その5:理解するな・考えるな・そうすればあなたは永遠に勝利者だ

  

 わらし:さあ、いよいよ詭弁のすべてを理解する時がやってきただ。ここでふりかえると詭弁にはおよそ次ぎのような特徴があるだな。

 1:ともかくなにがなんでも自分のコアを守るのが目的

 2:実験、検証の無視 

 3:意図的、あるいは無意識な愚鈍

 4:価値観と論理の混同

 5:確からしさの違いを無視する

 6:補助仮説を必要以上に大量投入する

 7:陰謀論

 ミラ:1、2、3、6はすでに出てきたけど・・・・。価値観と論理の混同とか、陰謀論とかはなんなの? 

 わらし:んー?? じゃあこれを見るだ。シャングリラの地図にまた新しいピースが見つかっただ!! それがなんとこれまでの地図にどうにもうまくあわねーだ。さて、おめーならどうするよ??

 ミラ:あきらめればいーんじゃない?

 わらし:・・・・・・・おめえ、それじゃあ詭弁になんねーだろうがよ。詭弁から逃げるな、考えろ。

 ミラ:はあ、詭弁から逃げちゃだめって、またそういう理不尽を・・・・。

 わらし:それがこのコンテンツの目的だからなあ。さあ、どうした答えなさいよ。

 ミラ:こういうのどうにもつらいのよねえ・・・。えーと、そうねえ。これも補助仮説の導入でどうにかすればいいのかな。もしかして、また架空道路をがんがんに引くとか?? 

 わらし:ふふふっ、そうしてもえーだがな、こういう手もあるだ。えいっ!!

げっへへへへっ、見ろ!!、このようになかったことにするだ。都合の悪い証拠は無視だー無視。

 ミラ:・・・・( ̄□ ̄;) そんな、馬鹿な・・・。

 わらし:確かに馬鹿な話よね。でもね、これがシャングリラ、つまりは守るべき仮説/コアを救う典型的な詭弁のひとつなのよ。

 ミラ:まあ、確かに有効な手ではあるわよねえ・・・。

 わらし:そうなのよ、これはとても有効な手なのよね。だって不利な証拠を無視しちゃうわけだからね。そして無視にはいろいろな方法があるわ。例えば最初にいった、意図的、あるいは無意識な愚鈍、というのもひとつの有効な手なのよ。

 ミラ:ようするに自分に不都合な証拠は分からないか、さもなきゃ分からねーふりをしろってことかよ。

 わらし:まあね。不利なデータそのものを理解しなければ、それで勝ちなのよ。

 ミラ:でもさ、勝ちっていっても、実際には負けているんでしょ? なんか釈然としないわねえ。

 わらし:だから最初にいったじゃないよ。そもそも負け戦だって。今さら、でも本当は負けているんでしょ??!! そんなのいやああああ、もなにもやったくれもないがな。

 ミラ:つらいわ・・・。

 わらし:そうかあ? 我慢しろ。慣れればそのうちになんにも感じなくなるだ。

 ミラ:それがいやなのよ。ところでさ、本当にこんな手があるの?

 わらし:あるもなにも、例えばお前、書店へいって進化を題材にした本を手にとってみろ。ダーウィンの進化論はくつがえされたとかそういう本がいくらでもあるだよ。その中身を見てみろ。進化は計測できないとか、生物種の間に競争なんてねーってことが書いてある。

 ミラ:そうねえ・・・書いてありますよねえ。でも実際の研究ってそんなもんじゃないでしょ?

 わらし:もちろん。生物種間にある競合の様相や環境の変化にともなう遺伝子の変動とか浮動とか、そんな研究は何十年も前からいくらでもあるだ。

 ミラ:ようするに連中はそういう本を読んでないってことなわけね。つまりは都合の悪い証拠の無視というわけか。

 わらし:そういうことよね。だからこういう、無視、という手段は別に珍しくもなんともないのよ。逆にいえばこういうことよ。

詭弁を語るのなら、スタンダードな仮説や、スタンダードな研究者のやっていることを知ってはいけない。ましてや理解してはいけない。読むな考えるな、もしも知ってしまったら忘れろ、無視しろ、話を最初に戻せ、

つまり、無知こそ力なりよ。世の中には実際に、分からないけど、知らないけど、そう前置きをして。でもおかしいような気がする、とか間違っていると思う、とかいうやつがいるだろ。

 ミラ:はあ、まあなんといいますか、いますよねえ。

 わらし:あれもそうだな。無知を武器にして、同時に自分達に致命的な知識は得ないようにしているわけだ。だから科学に対して感想で戦おうとするだな。自分に都合の悪い教科書は読みたくない、でも反論したい。だとしたらこれしか手がないだよ。

 ミラ:でもさ、知識を知らないわけにはいかないんじゃないの? 本だのネットだのニュースだのでどんどん流れてくるんだから・・・・。

 わらし:安心しろ。なかにはたくさんの本を読んで誰よりも情報を集めているのに答えにたどり着けない人もいるからな、なあ、たのもしいべ。

 ミラ:え?? 情報を集めているのにそんなになっちゃう人もいるの? おかしくない?

 わらし:おめー、地図の断片だけを集めれば、それだけで正しく地図の復元ができると思ってないか? 

 ミラ:・・・・

 わらし:例えばだ、食材だけを集めて料理ができるか? そんなことないべ。料理の腕が悪ければどんないい食材を集めたってだめだあ。同じようにピースだけを集めて地図が組み立てられるか? 科学な考えを知らないまま情報を集めればどうなるだ? どうにもならんべよ。

 ミラ:たしかにね。ピースだけあってもそれだけでは無理だわ。同じピースから妥当な組み上げをすることもできれば、反対にシャングリラを作ることもできるわけだしね。ピースを集めるだけではだめってことね?

 わらし:そうだあ。全体を組み立てる方法論を把握していないとせっかくの最新知識も宝の持ち腐れだ。逆にいえばこういうことよ。

  情報を集めることと、情報から科学の仮説を組み上げることとは別の動作

ということよね。

 ミラ:知っていても、それだけではどうにもならないってわけか。

 わらし:そうだあ。だからもしシャングリラを守りたいのなら。知識をたとえ知ったとしても、知識の組み立て方を理解してはいけないだ。

  相対性理論を批判したければ相対性理論を理解してはいけない

  進化学を批判したいのなら進化学やダーウィンのロジックを理解してはいけない

  最節約法や分岐学を批判したいのなら最節約の役割を理解してはいけない

どういう方法論で科学者たちが仮説をチョイスしたのか? あるいは組み上げたのか? それを理解した瞬間に負けていることを認識してしまうからな。だから科学の教科書や参考書は読んじゃいけないだ。

 ミラ:なるほどね。じゃあさ、

 4:価値観と論理の混同

 5:確からしさの違いを無視する

 7:陰謀論

こういうものはなんなのよ?

 わらし:いずれもシャングリラを正当化するための”へ理屈”だな。例えば論理や方法論で勝てないなら価値観で戦えばいいだよ。例えば、

 シャングリラがあればすてきだと思わない?

 シャングリラがある可能性だってゼロではないでしょ

 シャングリラを認めないのは学者が自分の研究が壊れることを怖れているからに違いない

こんな感じでね。

 ミラ:いや・・それはもう狂気のさたな言いわけじゃない? そもそも科学ってそういうものじゃないと思うけどなあ・・・。

 わらし:おめー何いってるだ。これは詭弁だから狂気も正気もそもそもないだよ。

 ミラ:そうね・・、そうでしたね。

 わらし:それにこういう反論はありがちよ。

 ミラ:そうですかね? 

 わらし:例えばダーウィンの進化理論は生物の競合を前提にしている。これは競争社会を肯定する悪い理論だって言い方ね。これは価値観と論理の混同ね。

 ミラ:・・・・それおかしいわよね。

 わらし:そうね、おかしいわね。でもどこが?

 ミラ:いやその、なんと申しますか、ダーウィンの理論は生物どうしの競争なり競合があるという観測事実に基づいたものなわけでしょう?

 わらし:そうね。

 ミラ:ようするにダーウィンの主張は事実に基づいている。その理論を否定するために、理論が基づいている事実そのものが気に入らないって論法を使ったわけよね? 

 わらし:そうね。

 ミラ:それっておかしいわよね。

 わらし:そうだけど、具体的にはどこが?

 ミラ:そのなんといいますか、事実が気に入らない。それはいいわ。それをどう感じるかは個人の価値観だし・・・・・。でも、そういう事実が気に入らないとその人が思っても、それでその事実が消えるわけじゃないわよね? 

 わらし:消えないだろうな。

 ミラ:だからそういう過酷な現実、ここでは生物同士の競争や競合のことだけど、それを無視したからといって、その事実に基づいた理論が消えるはずがないわよね? 

 わらし:そうね。消えるわけはないわ。ようするに否定になっていないのよ。あるいは否定になっているとしたら、念じれば今の悪い世界が変わりますという意味合いでの非現実的な否定よね。

 ミラ:それってやばくない? 

 わらし:やばいかどうかは知らんが、具体性のない発想だろうな。念じればなにもない空間からパンが出てきて空腹が満たされるというのと同じぐらい。

 ミラ:いや、やっぱりそれは発想としてやばいだろう。

 わらし:まあねえ。

 ミラ:それにしてもこんなのでだまされる人がいるの?

 わらし:おめー、人間のことよくわかってねーな。人間が理屈で行動する動物か?? 理屈で考える生き物か? 理屈ではおかしいのにねずみ講とかマルチ商法にひっかかるやつなんていくらでもいるだろうがよ。

 ミラ:はあまあ、いわれればそうですねえ。

 わらし:だいたいこっちの話を信じた方が幸せよ〜〜って勧誘されたら人間がどうなるか分かってるだろう? 論理なんていうこむずかしいものをいやがって、みんな分かりやすい方に流れるぞ。

 ミラ:でも、分かりやすいってそんなの直感的な判断なんかで・・・。

 わらし:直感だからこそ分かった気になるんだろ。

 ミラ:いや、そうだけどさ、ねずみ講みたいに金がかかっているわけじゃないし・・・。

 わらし:金がかかってたらもっとひどいことになったろうな。

 ミラ:・・・・・・。

 わらし:価値観は現実をある程度反映したものよね。でも人間の価値観が現実を変えることはないわけよ。変えるとしても価値観を持った人間どうしの関係が変わるわけよね。もしも人間の価値観がもっと外の世界や現実を変えるというのならそれはどうかしら? もしそうなら地球は毎日、平らになったり球になったりするのをくり返すんでしょうね。

 ミラ:えーっと、そうなりますかね?

 わらし:今でも世界は平らであるべきだと信仰する人がいるんだからそうならなきゃおかしいだろうがよ。

 ミラ:はあ、まあ、そうですねえ・・・。だとするとさ、価値観と理屈を混同するって、例えばさ、地球が平らだって信じてもいいから、地球は平らだと想定して船や飛行機の航路を設定してもかまわないって主張なわけだ。

 わらし:まあそうなるなあ。

 ミラ:そんなことしたら大変なことになるわよね。

 わらし:なるね。もっともそんなことはしないだろうがな。

 ミラ:なんで?

 わらし:現実にそんなことしてみろ、破たんがばれちまうだろうが。

 ミラ:そうねえ、ばれますねえ。

 わらし:信じるだけで何もしないってのが詭弁のコツだ。そうでないと破たんが白日のもとにさらされてしまうからなあ。

 ミラ:実験するなってこと?

 わらし:当然。少なくとも科学でいうような実験をしてはいけないわ。それは検証なんですからね。科学に一歩踏み込んだら負けてしまうの。防衛するだけではだめ、一歩も前にでないことが肝心なのよ。

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