分岐学(あるいは系統学)でどのようなことをするのかそれはすでに説明しました。では分類学ではどうでしょうか?。
実は、分類を作る過程は良く分かっていません。どうもある形質を重要視して、その形質に基づいて分類が構築されるようです。
孫引きで申し訳ありませんが、「生物系統学」三中信宏 1997 東京大学出版会 pp31を参考にしてください。いずれにせよ、分岐学は1950年、ドイツの昆虫学者ヘニングによって提案されましたが、この方法論がCladistics という、分類学とは異なる呼び名で呼ばれたということ、分類学者から議論を挑まれたということは、分岐学が分類学と違うものであったと科学者に認識されたことを反映しているのでしょう。
いずれにせよ、分類学では少なくとも以上で述べた系統学の手順を使っていないことは確実です。
このように分類学と系統学とは異なる学問であり、分類と系統はまったく違う手段によって構築されます。当然、構築する方法が違うのですから、たとえ同じ情報から出発しても分類体系と系統が一致しないのは不思議な話ではありません。
そうである以上、そもそも分類を系統に合わせる必要があるのでしょうか?。ですが、分類とは呼び名です。呼び名とは私達が意思疎通をするために必要です。
では、呼び名や名称が系統を反映していない場合、その呼び名で系統に関する会話をするとどうなるでしょうか?。混乱しますよね。ではどうしたら良いのでしょう?。
ひとつの方法が系統を反映した分類群をなるべく作ろうとする努力だったのでしょう。ただ、これはもともと方法論が違うものを一緒にしようというのですから。根本的には難しい問題を抱えているかもしれません。
もうひとつは系統と分類は別物で、系統を反映した分類を必ずしも作る必要はない、というものです。いわゆる進化分類法(Evolutionary method)というのもこれにあたります。
進化分類法(あるいは折衷学派:例えば三中 97 )の状況、評価については、生物系統学 三中信宏 1997 東京大学出版会 第3章(例えばpp143~156)を参考にしてください。
いずれにせよ進化分類学は分類学と系統学の折衷案のようなものです。この場合、系統の話をする時に、系統を反映していない分類群で会話しなければいけないので、少なくとも北村には根本的な問題が未解決のように見えます。
もうひとつの方法としてPhylogenetic taxonomy というものがあります。de Queiroz & Gauthier が1990年に提案したものです( Phylogeny as a central Principle in Taxonomy : Phylogenetic Deffinitions of Taxon names . Syst. Zool., 39(4) pp307~322 1990)。
このPhylogenetic taxonomy というのは系統学(あるいは分岐学)が示した系統に対して、その系統の分岐した構造に正確に呼び名を与える方法論であると考えて良いでしょう。系統を言葉に翻訳するための方法論であると言ってもいいかもしれません。
もっとも、このPhylogenetic taxonomy はいわゆる分類学(Taxonomy)ではありません。分類群を作ることが目的である分類学と系統を言葉に翻訳するPhylogenetic taxonomy はどう考えても別物ですよね・・・。
つまるところ、Phylogenetic taxonomy は系統学のためにある方法論なのです。逆に言うと系統学は古典的な分類を必要としないか、あるいは乖離しつつあると考えた方がよいのでしょう。実際、分類学と系統学は異なる方法論なのですからそうなる運命なんでしょうね・・・・・・・。
このあたりの議論や考え方は、前出の、生物系統学 三中信宏 1997 第1章を参考にしてください(例えば、第1章 結末ー偽りの蜜月の終焉)。
また、分類学と系統学が違うことを考えると系統学の1分野であるCladistics が分岐分類学と訳されるのはおかしいですね。三中 97 で指摘されるように分岐学と訳されるのが正解なのでしょう。実際、Cladistics という単語にTaxonomy (分類学)なんて書かれていませんし、分岐学は分類学ではない。系統を形態から推定する方法です。
またPhylogetics も系統分類学と訳されることが多いですが、これも三中 97 で指摘されているように系統学と訳されるのが妥当なはずです。系統学は系統を推定したり研究する学問であって分類をするものではない。
こうした訳語は分類学が系統を反映すべきであるという考えか、あるいは分類学=系統学という認識に基づいたものだったのかもしれません。
ちなみに、Phylogenetic taxonomy は直訳すると系統分類学となります。でも、これまた分類学ではない。私達は分類と系統をついつい同一視してしまいますが、これがこういう混乱を産む原因になっているのでしょう。