実技
わらし:例えばだ、タンポポとヒマワリ、ワラビの系統関係を知るにはどうすればいいか?
ミラ:外群比較すればいいわけね。でさ・・・、一応聞いておくけど外群ってそもそもなにね?
わらし:うーん? 例え話のXやザンバラ・アッタマのことだぞな。
ミラ:・・・・・・お前、殴るぞ。
わらし:へいへい、系統解析の対象じゃない生き物のことだな。
ミラ:すると・・・・この場合だとタンポポやヒマワリ、ワラビじゃない生き物のことなのね?
わらし:そうだな。例えばキノコなんかがそうだ。キノコとくらべてタンポポ、ヒマワリ、ワラビの共通点を探して見るだよ。
ミラ:キノコになくて、なおかつ他の生き物で共通点になる特徴ね。えーっと・・・・・
わらし:体が細胞でできている・・・・
ミラ:ふーん、体が細胞で・・・ってそれはキノコもそうじゃない!!
わらし:ちっ・・・気づきやがったか。
ミラ:ちっ、じゃねーよ。てめー、あたしに共有原始形質を選ばせようとしていやがるな?
わらし:DNA・・・
ミラ:なめるなよ・・・、ええっとね、そうよタンポポ、ヒマワリ、ワラビはどれも緑色ね。
わらし:そうだな、どれも葉緑素あるいは葉緑体という共通の特徴を持っているというわけだ。するとこうなるだな。
____________キノコ
|__A1____ワラビ
|____タンポポ
|____ヒマワリ
わかるか?
ミラ:ああーーなるほど、この場合はワラビ、タンポポ、ヒマワリが共通の祖先(A1)から葉緑体という特徴を受け継いだと考えるわけね?
わらし:そうだな。逆にいうとキノコはA1からは進化しなかったわけだ。ようするにだ、
____________キノコ
| ↓ここで葉緑体という特徴がうまれて、それが子孫のワラビやタンポポ、ヒマワリに受け継がれる
|__A1____ワラビ
|____タンポポ
|____ヒマワリ
このようなことが起こった、キノコはA1の子孫でないために葉緑体を受け継がなかった、だから緑色ではない、と考えられるわけだな。
ミラ:なるほどね。でもさ、これじゃあタンポポがワラビに近いのかヒマワリに近いのか分からないよね?
わらし:このままじゃわからんな。
ミラ:どうするのよ?
わらし:もしタンポポがワラビに近いのなら、ワラビとタンポポには彼らだけが持っている共通の特徴があるはずだな。
ミラ:そうねえ。
わらし:反対に、もしもタンポポがヒマワリに近いのなら、タンポポとヒマワリは彼らだけが持っている共通の特徴があるはずだな。
ミラ:そうなるわねえ。それでなおかつキノコが持っていないもの、その特徴を見つければ問題は解決するのね?
わらし:そういうことだ。さあ、やってみるだ。
ミラ:そうねえ・・・・、タンポポとヒマワリはどっちも種をつけるわね。
わらし:キノコは種をつけないし、ワラビもつけんわな。
ミラ:それにタンポポもヒマワリのどちらも花を咲かせるわね。
わらし:そうだな。キノコは花を咲かせないし、ワラビも咲かせないな。
ミラ:だとするとこういうことが言えるわけよね。
____________キノコ
|________ワラビ
|_A2__タンポポ
|___ヒマワリ
ようするにタンポポとヒマワリは彼らだけの共通の祖先を持っているのよ。
わらし:タンポポとヒマワリは共通祖先A2から種と花という共通の特徴を受け継いだってわけだな。
ミラ:そうよ。つまりこういうことよね?
____________キノコ
|________ワラビ
| ↓花と種という特徴はここで進化して子孫に受け継がれた
|_A2__タンポポ
|___ヒマワリ
わらし:そういうことだな。ようするにタンポポとヒマワリがより近い親戚だってわけだ。
ミラ:なるほどね、こうやって問題を解決していくのか。でもって、花と種という特徴はタンポポとヒマワリのシナポモルフィーなのね?
わらし:そうだあ、花と種はタンポポとヒマワリが共有する派生形質、つまり共有派生形質:シナポモルフィーだってわけだ。ついでにいうと葉緑体はワラビとタンポポ、ヒマワリが共有するシナポモルフィーだな。
ミラ:なるほど。
わらし:さて、例えば人間の家系図を分岐図的に示すとこうなるだ。
___________私から血縁の遠い人
|______私のいとこ
|____私
|__私の妹
ミラ:そうね、そしてタンポポとヒマワリはいまやったように
____________キノコ
|________ワラビ
|_____タンポポ
|___ヒマワリ
このような関係にあるわけね?
わらし:うんだなあ。するとヒマワリの姉妹になるのはどの植物だ?
ミラ:タンポポでしょ?
わらし:そうだあ。この場合、タンポポとヒマワリは姉妹関係にあるというだ。そしてタンポポとヒマワリから見ると、ワラビは従姉妹のような関係にあるわけだな。このように分岐図をつくると系統関係がわかってくるだ。
ミラ:なるほど。
わらし:それだけじゃないだ。生物の進化や様々な事柄が分かってくるだよ。例えば今作った分岐図を見てみろ、共通祖先A1とA2の位置からすると、先に葉緑体が進化したことになるだろ?
____________キノコ
|__A1____ワラビ ←A1で葉緑体が進化する
|_A2__タンポポ ←A2で花と種が進化する
|___ヒマワリ
ミラ:そうねえ。
わらし:そしてその次に種と花が進化したわけだ。ようするに生物の血縁関係だけじゃなくて、進化の様子まで分岐図からわかるだよ。
ミラ:なるほど、そして分岐図を作る学問、それが分岐学なのね。
わらし:まあそういうこっちゃ。どうだ、分岐学の原理とは非常に簡単なものだろう?
ミラ:そうね、理屈はこむずかしいけど手続きは簡単ねえ。
わらし:でもな、これは理想的なお話だな、じっさいの作業はこんなに単純ではないだ。
ミラ:なんで?
わらし:生き物と進化の歴史は複雑怪奇なのよ、実際、生き物の特徴を検討すると矛盾した分岐図が幾つも描けてしまうことがあるわ。というかむしろそういうことの方が普通よね。
ミラ:はいっ?? じゃあそういう時はどうするの?
わらし:そうだな、だから今度はもうすこし難しい例を見ていくことにするだな、分岐学と系統解析の醍醐味というのはこういうところから始まるだ。
参考文献として:
「系統分類学入門ー分岐分類の基礎と応用ー」 E・O・ワイリー他 宮正樹訳 1992 文一総合出版
「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版
「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会
「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫
分岐学の入門書(のつもり)「恐竜と遊ぼう」はこちら^^;)→