分岐と入れ子の説明
ミラ:でっ、さっきの話はあれよね、方法論の違いなわけで。今度はなんだ?
わらし:入れ子をどう作るのか? 入れ子構造はどうあるべきか? という話であるな。
ミラ:あー? つまり? なんだ?
わらし:かつて分岐学と戦った表形分類学は生物の特徴のすべての距離を計ろうと考えた。では、そうした場合、現れるものはなんだろう?
ミラ:さあ?
わらし:すべての生物の特徴の有様を示すのだから、あれだな”生物の特徴の分布というかその有様”を現れると思えばいいだな。
ミラ:はあ。
わらし:分岐学はそれに対して、派生的なデータを用いれば系統を再現できる。それに基づけば正しい分類が出来ると主張した。まああれだ、ダーウィンさんの悲願がついに実現ってやつだな。
ミラ:分岐学が分類はこうあるべきだと?
わらし:昔の話だからな。そういう時代もあったのさ。
ミラ:でも分類学は分岐学からも表形学からも影響を受けていないっぽいんでしょ?
わらし:派生形質で系統を再現するわけでもない、生物が持つ特徴の有様を示すわけでもない、それが分類学なのかもしれない。
ミラ:それは聞いた。でっ?
わらし:しかしだ。分類学がどうあれ、分岐学も体系を言葉で示さなくちゃ行けなくなるのさね。
ミラ:・・・なんか訳が分からなくなってきたぞ。
わらし:例えばA B C D の生き物が
___________A
|_______B
|_____C
|___D
こういう血縁関係をもっていた、あるいはこういう進化の歴史を持っていたとする。まあ、これはさっきもやったがな。
ミラ:やったわね。でっ?
わらし:分岐学は系統を探る学問だ。だとすると本来はここでおしまい。後はこの分岐図から分かることを探るわけだな。
ミラ:Cがどういう風に進化したのかとか?
わらし:そういうこっちゃな。そのような歴史を知るための道具が分岐学である。逆に言うと別に生物を整理しているわけではない。でもこの分岐図を言葉に翻訳しなければいけない時がある。
ミラ:どういうこと?。
わらし:血縁関係、それ自体は分岐図を見れば一目瞭然だよな? 家系図を見れば誰が誰の子であるのか分かるのと同じようにね。
ミラ:そりゃそうね。
わらし:でも人間って言葉を使って意志や結論を伝えるよな。だから図も言葉に変えて伝えなくちゃいけない。そういう時はどうするね?
ミラ:ああん? あー、なんというか・・・、人間はものに名前や呼び名をつけて会話するわね。
わらし:じゃあ分岐図みたいに枝分かれするものはどう名前をつけたらいいのかな?
ミラ:そうねえ・・・・、例えば河と同じでしょう?。あっちの支流にはこういう名前をつけて、あっちの支流にはこういう名前をつけて。
わらし:つまり物の分岐パーターンや構造に沿うようにして名前をつけるわけだな。
ミラ:そうなりますね。
わらし:そうしないと混乱するからな。どっちもきれいなせせらぎだから多摩川の源流と四万十川の源流を同じ”せせらぎ川”にされたら困るよな?
ミラ:困るわねえ・・・。
わらし:だから分岐パターンに沿うように正しく伝えなくてはいけない。そして分岐パターンに忠実に言葉を作ったら、それらの言葉は入れ子になるずらよ。
ミラ:いや、おい。具体的にいわないと分からないわよ。
わらし:じゃあ、ABCDの生物の血縁関係を分岐パターンにしたがって色分けしてみるずら。そしてそれぞれに名前をつけてみるだな。
___________A
|_______B
|_____C
|___D
わらし:まず一番大きな枝をピンク色にしたよ。名前はどうする?。
ミラ:アルファベティアでいいんじゃない?
わらし:・・・・アルファベットだからか?
ミラ:うい。
___________A
|_______B
|_____C
|___D
わらし:・・・じゃあ次、この緑の部分の名前はどうするね?
ミラ:ベカディア。
わらし:なぜに?
ミラ:BCDだから。
わらし:安易だけども良しとしよう。こんどは末端の部分だけに色をぬっただ。これはどうしよう?
___________A
|_______B
|_____C
|___D
ミラ:CDだからシディリアでいいんじゃない?
わらし:こうやって分岐パターンごとに名前をつければ正しく会話できるよな?
ミラ:面倒くさいけどねえ・・・。
わらし:でも正しさ優先だな。
ミラ:はあ、まあねえ。
わらし:ともかくだ。こうして作った呼び名は一見、入れ子になっているだろ。
ミラ:ああ、枝分かれを反映しているからなのね。
わらし:そういうこっちゃな。例えば、シディリア+Bは何?
ミラ:ベカディアでしょ?
わらし:つまりベカディアはシディリアを含む。
ミラ:ベカディア=(シディリア+B)ね。
わらし:そしてアルファベティアはベカディアを含む。
ミラ:アルファベティア=(ベカディア+A)ね。
わらし:そういうことになるだな。つまりアルファベティアはベカディアを含み、ベカディアはシディリアを含む。入れ子構造だ。
ミラ:なるほどねえ。
わらし:さて問題。新しく見つかった新種の生物Xを分岐学を用いて検討したら、Xはベカディアですがシディリアではなかった。さらにBに特に近縁というわけでもない。じゃあXはどこにいる?
ミラ:ここでしょう?
___________A
|_______B
|_____X ←ベカディアだがシディリアではない位置
|_____C
|___D
わらし:そうなるだな。でだな、この場合のベカディアだがシディリアではないってどういうことになると思う? これは分類の話だろうか?
ミラ:違うんじゃないかな・・・・。これはXが生物ABCDとどういう血縁関係にあるかって話よね?
わらし:そういうことだな。分岐図に分岐パターンにしたがって呼び名をつけた。その呼び名を使って血縁関係と進化の話をしているわけだよ。分類の話のように聞こえるけども、実のところ分類の話をしているわけではないのだよね。
ミラ:ああ、そういうこと。
わらし:理想的には分岐学でいうグループって分岐図のパーツに与えられた名前ってこっちゃな。
参考文献として:
「系統分類学入門ー分岐分類の基礎と応用ー」 E・O・ワイリー他 宮正樹訳 1992 文一総合出版
「系統分類学」 E・O・ワイリー 宮正樹・西田周平・沖山宗雄共訳 1991 文一総合出版
「生物系統学」 三中信宏 1997 東京大学出版会
「種の起源」(上下) ダーウィン 原著1859 岩波文庫