ハリーへ


先日は取り乱した手紙を送ってしまって済まなかった。
リーマスが行方知れずになるというのは初めての事で、なにしろ彼はああいう体質なものだから心配のあまり見境がなくなってしまった。その後で出した短い手紙にも書いた通り、無事だったので安心してほしい。まったくハーマイオニーの助言がなかったらどうなっていたか、考えるだけでぞっとする。近いうちにきちんとしたお礼をさせてほしいと彼女に伝えてくれ。

吸血鬼のグルーピーなどという輩は、昔はいなかったので盲点だった。犯人の女は……リーマスを攫ったのは女性だったのだが……吸血鬼に飼われて暮らすという状況にひどく魅力を感じていたらしい。そして男性の人間と暮らしている吸血鬼の噂を聞いて、それならば若くて比較的美しい女性の自分の方が、吸血鬼にとってより魅力的に違いないと、館までやってきて夜の散歩中のリーマスを攫ったそうだ。(自分の何十分の一の腕力しかない魔法使いの女性に誘拐されるような吸血鬼は、世界にリーマス・ルーピンただ一人しかいないだろうな)監禁されたリーマスは、しかし非常に行儀のいい吸血鬼なので、見ず知らずの人の血は飲めないと断ったらしい。どう挑発しようと自分に見向きもしないリーマスに業を煮やした彼女は交渉した。咬めば帰すという約束だ。鎖を引きちぎって帰るよりは幾分平和的かと、リーマスは彼女の血を吸ったらしい。
……ハリー、君が心配するといけないので一応書いておくが、俺はその件でリーマスを責めてなどいないし、彼の判断は全く正しかったと思っている。しかしその為に少々問題が生じてしまった。

俺がその女の住居に侵入したとき、リーマスは何というか……全力で嘔吐していた。女は呆然として座り込んでいた。初めは女がリーマスに毒でも飲ませたのかと疑ったが、彼女の喉に咬み傷があるのを見て、どうも違うらしいと気付いた。リーマスは壮絶に苦しみながら、しかし息も絶え絶えに女に詫びていたんだ。曰く「今日は体調が悪いんです」「違います」「本当にすみません」と。

屋敷に連れ帰ったリーマスは頑として何も語らなかった。彼が誘拐犯の女に詫び状を書こうとするのを何度も止めた。今もまだ意気消沈している。気持ちは分からなくもないのだが、どう励ましていいのか俺にはちょっと分からない。
もしよければ近いうちに彼を元気づけに来てくれないだろうか。返事を待っている。

S.B






シリウスへ

先生が無事だったとのこと、本当に安心しました。
吸血鬼のグルーピーなんて僕も知らなかった。おかしな流行があるものだね。ハーマイオニーには伝言をつたえておきます。気にしないでいいと彼女は言うだろうけど。
シリウスの手紙を読んで、落ち込む先生の気持ちも……まあ分からなくはないので(でも先生が気にすることはないと思うよ全然!)今週末にでもそちらに帰ろうと思います。移動の関係で数時間しか居られないけど、少しでも先生が元気になるなら。

ところでこの話は先生には伏せておかないといけませんが、この誘拐の話は思ったより広まっているみたいだよ。僕の友達のお父さんが雑誌を出版していらっしゃるのだけど、その友達の言うことには「カリスマ美食吸血鬼の話題が、いま吸血鬼の間で大流行」らしい。……うん、そのカリスマ美食吸血鬼が誰の事なのかは予想に難くないと思うけど、何でも彼は「究極の血」以外は口にせず、若く美しい人間がどうぞ咬んでくださいと訪ねてきても、一口味見しただけで「こんな血が飲めるか!」と吐き戻してしまう……って話になっているみたい。くれぐれも先生に言っちゃだめだよ。倒れちゃうからね。でもそのうちに取材とか、ほかの吸血鬼グルーピーの人とか、また賑やかになるかもしれないから、2人でしばらく身を隠した方がいいかもしれません。先生の静養を兼ねて。貨物列車に先生入りの棺桶を乗せるのが不安だから旅は億劫だと言っていたけど、場合が場合だから仕方ないよ。

それにしても、飲んだことがないし飲むこともないだろうけれど、シリウスの血は本当においしいんだろうね。普通の血を飲んだらまずくて吐いちゃうくらいだもの。僕らの飲み物に譬えると何が近いのだろうと考えます。先生に聞いてみたいけど、しばらくは話題にしない方がいいのかな。一応今週末帰省する予定にしていますが、もしすぐにでも旅行に出るならその旨連絡をください。
それではね。

H.P






そのカリスマ美食吸血鬼は「女将を呼べ!」とか言うと思う。

女のひとは、ダイエット+サプリで栄養が偏り気味で
加えてヘビースモーカー+ヘビードランカー、
ちょっとした薬物も嗜んでらしたのだと思います。
でも吸血鬼に吐かれたショックで更生したんじゃないかと…。
先生……人助け……一応。

シリウスの鼻の下は1ミリほど伸びたかもしれない。
手料理で彼氏を虜にする女子みたいな。


2009.10.31



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