牧師室より

イエスの教えが、口伝伝承として伝えられたことは知られている。しかしイエスの自筆の文書は存在せず、イエスがどのような教育を受けたのかも聖書は記していない。
 新約聖書には、「ナザレから何か良いものが出るだろうか」(ヨハネ1:46)などの記述があり、ガリラヤ地方の人に対して、ユダヤ地方の人が持っていた偏見を、読者である私たちも共有しているように思う。そのためイエスは、無学な人たちの間で育ったと考えられがちである。

シュムエル・サフライ氏(ヘブライ大学教授)は、「1世紀のガリラヤ地方は賢者の数においてユダヤ地方に勝り、そればかりかガリラヤの賢者の教えは、その道徳的価値においても高く評価された」と指摘している。古くからガリラヤは外国との交易地であり、都市文化が栄えた場所であった。シナゴーグでは、初等・中等の宗教教育が行われ、希望すれば大人と一緒に学ぶこともできた。

 歴史家ヨセフスは、「我らは子どもの教育には誇りを抱く」と語っているが、イエスもまた宗教教育を受けていたことが分かる。旧約聖書を引用し、群衆がそれに聞き入ったのは、聞き手もまた、教育を受けていたからだと言える。     (中沢譲)