◇牧師室より◇
ディートリッヒ・ボンフェファーはヒットラーのナチズムが台頭してくる中で、これに抵抗する「告白教会」の中心メンバーとして活躍した。最後は、ヒットラーの暗殺計画が発覚し、敗戦の直前に絞首刑になり、39歳の生涯を終えた。ボンフェファーの神学は「成熟した時代」と言われる現代に決定的な影響を与えた。多くの著作を著しているが、中でも、獄中で書いた「抵抗と信従」は読者に大きな感銘を与えた。
「東京バッハ合唱団」を主宰し、精力的な演奏活動を行なっている大村恵美子氏は、ボンフェファーの「抵抗と信従」に引用されている全曲を網羅し、CDに収録された。大変な作業で、また収集も困難だったと思う。早速CDを注文したが、売り切れていた。希望者が多かったのであろう、増刷され送られてきた。勇んで聞いてみたが、ドイツ語で全く分からない。語学のできない我が身のお粗末さを嘆いた。
しかし、「抵抗と信従」の引用個所と全ての曲が日本語で丁寧に紹介されている解説書がついていた。これを読んで、獄中のボンフェファーが音楽を通して慰めと励ましを得たことを垣間見ることができた。ボンフェファーは恵まれた家庭で育ち、全てに優れているが、もちろん教会音楽にも深い造詣を持っている。暗記しているコラールを獄中で歌っている姿を彷彿と想像させられた。
その中の一曲を紹介したい。
「気落ちせず、恐れもなく
キリスト者はどこにいても
常に自らを視線にさらすべきだ。
死が彼を疲弊させようとも、
それでも心を明るくもち、
静かに落ちついているべきだ。
いかなる死も、われわれを殺すことはできず、
むしろ幾千の困難から
われわれの霊を切り離し、
にがい苦しみの扉を閉じて
道を開く。
こうして天の喜びへ達することができる。」 パウル・ゲルハルト
また、「抵抗と信従」に下記のように書いている。「キリスト誕生の絵が心に浮かぶよ。それに、次のような歌詞もね。『馬ぶねは明るく澄んで輝き、その夜は新しい光を与える。』」これは讃美歌21の229番の5節で、下記のように訳されている。「まぶねまばゆく 照り輝きて、暗きこの世に、光あふれぬ。」
文字だけの関わりであったボンフェファーが讃美歌を通して新たに感じられて嬉しかった。