◇牧師室より◇

 朝日歌壇に「自衛艦の父を見送り泣く少女イラクの少女を泣かせてはならぬ (大阪市)金 忠亀」を馬場あき子氏は第一首に選び、次のように選評している。「イージス艦がインド洋に向かい出航した。乗務する父を見送り、別れを悲しむ少女の涙がある。第一首はその映像から、戦争がどれだけ多くの人間の涙を求めるものかを考える。アメリカの攻撃予告に怯える少女たちに悲哀の涙を流させてはならないだろう。」

 私たちは反対側のことを想像する力が確実に衰えている。金氏の歌は反対側の人々を鮮やかに想像し、心を寄せている。私は想像力を失わせたのはマスコミ、特にテレビの影響であろうと思っている。現代人の一日の情報収集量は江戸時代の人の一生分に当たると聞いたことがある。それほど多くの情報を得ている。しかし、それは向こうから与えられた一方的な情報で、事の真偽を確かめてはいない。

 米国は世界最強の軍隊でイラク周辺を取り囲み、報道は今にも戦争が起きると煽っているように私には聞こえる。新聞の「声」の欄に関原和佳子氏は「戦争させない報道を考えて」と次のように投書している。「客観的な事実を伝えているようでも、それは一方からの意見になっていませんか。戦争をする側、仕掛ける側からの声が中心で、仕掛けられる側、巻き込まれる側からの声が少なすぎます。」

 元米国司法長官ラムゼー・クラーク氏によれば、米国がイラクにクウェート侵攻を唆し、制裁という名目で湾岸戦争を引き起こしたと分析、報告している。イラクは大きな打撃を受け、その後の経済制裁で治療を受けられない多くの子供たちは死に、特にウラン弾による白血病者と奇形児が急増している。「911」の首謀者とされたビンラディン氏の殺害を狙ったアフガン戦争はその目的を達することなく、多くのアフガン国民を殺し、深い傷跡を残し、今も混迷を深めている。

 金氏は、イージス艦に乗って行く父を見送る少女の涙も無益な涙である、まして、攻撃されて涙する少女の涙は枯れることがない、歴史の中に深い怨念として堆積するだけであると歌っているように思う。

 118日、イラク攻撃反対の集会とデモが世界各地で持たれた。国際的な反対世論が高まってきているが。