◇牧師室より◇

 アフリカのチャド共和国で、700万年前の人類最古と思われる猿人化石が発見された。人類誕生のシナリオが見直される可能性があるという。

 教会バザーで買った、大村幸弘氏の「鉄を生みだした帝国 ヒッタイト発掘」は実に面白く、一気に読んだ。ヒッタイトは紀元前17世紀から12世紀にかけてオリエント世界で一大勢力を持ち、エジプトまで脅かした大帝国であった。その背景には人類史上初めて「鉄」を持っていたからだと言われている。大村氏はトルコに渡りヒッタイト研究者として研鑚を続けた。そして、「鉄」問題にのめり込み、その顛末を書いている。

 考古学は大変な学問だと聞いてはいたが、聞きしに勝る肉体労働である。炎天下、遺跡でとにかく掘る。土器が見つかると、完全な形に復元するまで、破片を探し求める。トラック一台分の土砂を篩にかけて数千の破片を抽出し、更に数百に絞り込み、その中から土器にフィットする一片を探し出す。気の遠くなるような作業である。 楔形文字はどのように解読するのだろうかと思っていた。時代は三千年以上の隔たりがあるし、あの奇妙な文字を読み解くのには驚く。法則があるらしい。発掘された粘土板はもちろん完全な物ではない。想像力を膨らませ、前後をつないでいく。「鉄」という言葉にこだわり、それと関係するものを徹底的に洗い出していく。そして、製鉄場を推理する。当時の世界は、各民族が存亡を賭けて侵攻し合っていた。「鉄」は他民族に鋳造方法を決して知られてはならない。少ない文献と遺跡と地形から、肉体と頭脳を最大限に働かせアリアンナが製鉄場であると絞り込んでいく。そして、この地で「鉄」が出土したと聞く。大村氏は、最後に「ヒッタイト帝国の製鉄のふるさとはアリナンアであると―。」と感激を抑え淡々と書き終えている。推理小説よりはるかにスリリングなノンフィクションであった。

 最古の猿人化石の発見も、大村氏が情熱を傾けて求めた推理が正しかったことも、現代人の生活には何ら影響はない。しかし、大村氏のような作業の中から文化の本当の深みが創られていく。私たちは安直さ、便利さ、有益さという現実に役立つことのみを追い過ぎてはいないか。一見役に立たず、徒労に思えようと、真摯に追い求める人々に敬意を払うべきである。発掘をごまかし、有名人になろうとする人などは全く論外であるが。