ETV特集 06.10.24 

 先日、ある人から教えられてNHKのETV特集「許されなかった帰還−福岡・振武寮 特攻隊生還者たちの戦争」という番組を見ました。

 いつものことかもしれませんが、制作者の無知ぶりがモロに出ていて、テロップで「見習
仕官」とか、紙製の落下タンクを大写しにして「爆弾」とナレーションを付けたり、国民から強制徴収したお金で作っているのに、少しは勉強すべきです。
 修学旅行生で溢れる特攻会館の様子を延々と流したり、実に歩きにくそうな浜辺に高齢の大貫氏を連れだしてわざわざ歩かせたり、振武寮と何の関係があるのですか?

 画面には故倉沢元参謀が所持していた「振武隊編成表」が何度も登場していました。生前の倉沢氏に度々インタビューしたという林えいだい氏がコピーしていたのです。ところが、黄ばんでいて一見本物のように見えたので驚きました。なんと画面にセピア色を付けていたのです。この芸の細かさには驚愕ですが、こんな無意味な画面操作やオドロオドロした効果音に凝る前に、事実の記録にこそ、エネルギーを費やすべきでしょう。

 本土決戦への方針転換が、振武寮が存在した20年6月の時点で軍上層部だけの極秘事項であったとか、新鋭機は戦隊で使ったから特攻には旧式な中古機を回したのだとか、倉沢氏の生音声をそのまま流していましたが、決して記憶イコール事実ではありません。
 本土決戦の例で言えば、決号作戦準備は3月から正式に開始され、5月初めには決号作戦用の特攻隊が続々と編成されています。編成するのは末端の部隊ですから、当然みな知っていることです。

 飛行機に関しては、今日でもそうですが、操縦者は機種毎に養成されます。特攻に多用された97戦、高練、軍偵などは、操縦者のほとんどが、もともとこれらの機種で教育されているのですから、未熟操縦者でも乗りうるポピュラーな飛行機ということになります。

 特攻には戦隊でも現用の1式戦、3式戦、それに新鋭の4式戦も多く使われていますが、飛行機の機種と操縦者はあくまでセットです。仮に、4式戦を大量に特攻に用いようとしても、乗れる操縦者がおらず、また整備体制もありません(整備兵も改めて教育せねばならない)。特攻だからオンボロを…などという単純なものではないです。

 もう一つ、倉沢氏は録音の中で、不時着は敵前逃亡との疑念を持っていたという意味のことを言外に語っていたように思います。沖縄作戦の場合、故障を理由とした不時着は確かに多すぎるのです。飛行機は使い込まれているから故障が多いというものではなく、整備が完全なら、むしろ信頼性は高いのが常識です。

 勿論、105振武の佐藤氏が語っていたように、重い爆弾と燃料満載で飛行機には過大な負荷がかかっていて、狭い知覧飛行場では浮くのがやっとという状態ですから、その結果、不具合が誘発されたことは想像されますが、それでも、完整状態で出撃した飛行機があれほど不具合を起こすものか?と、操縦者である倉沢参謀が疑念を持つのは自然かもしれません。
 飛行機が旧式だから、使い込まれているから=故障というのは、一見尤もらしいですが、「素人考え」なのです。

 番組に登場した片山氏は、振武寮に宿泊していたとはいっても不時着組ではありませんから、ある程度客観的に事態を観察していたはずなのですが、何故か彼のインタビュー映像には振武寮での体験は出てこず、大貫氏の怨念ばかりが強調されます。

 やはり番組の目的は、林氏の主張そのままに故倉沢氏の冷酷さ、非人間性を世間にアピールし、糾弾することにあったようです。まるで
欠席裁判のような、後味の悪い番組でした。


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