<チョッパーの考察>



おれの名はトニートニー・チョッパー、青鼻のトナカイ。
だけど『ヒトヒトの実』を食べたから、喋れもするし、医術も出来る。
けれど、そんなの関係なしで、この船に乗れと誘われた時は涙が出るほど嬉しかった。

そうしておれは海賊船に乗った。
この船の奴らは皆気のいい奴で、数日の内には仲間って言うのはなんて 居心地のいい場所なんだって教えられた。
けれども何故か、本当に何故か、一つだけわからない事があったんだ。

それは・・・・・・。
「よぉ、チョッパー。何してんだ?」
目の前の甲板の縁に凭れながら、緑髪の剣士が話し掛けてくる。
彼はゾロ。ロロノア・ゾロ。
この船の剣士で、多分、副船長・・・なんだと思う。
一度『そうなのか?』って聞いたら、『さぁな・・・どうでもいいことだしな。』 って返事が返ってきたから、そんなものなのかなって思ったけれど。
「どうしたんだよ?変な顔してるぞ。」
フワリと優しく微笑みながら、おれの頭を撫でてくれる。
躊躇もせずに触れてくれる手が、暖かくって居心地がいい。
今なら聞けるかな、って思って口を開こうとしたら、後ろから大きな声が飛んできた。
「あぁー、いーなぁー、チョッパー。ゾロー、俺も、撫でてくれよぉ。」
少し甘えた声の主は、この船の船長であるモンキー・D・ルフィ。
スタスタと寄ってくるルフィを睨みつけながら、ゾロがムッと顔を顰めた。
「誰が、てめぇなんか撫でるかよ。」
「何だよ、ゾロ。冷てぇなぁ。」
そんな会話を聞きながら、おれはやっぱり首を傾げる。
だって、今だゾロの手はおれの頭の上にある。
なのに、その手の上にルフィの手が置かれてもゾロは手を引くことをしない。
口調は怒っているものなのに、態度を見てるとまるで・・・まるで・・・。
「ん?どうしたんだ。チョッパー。」
横にいたルフィに声を掛けられ、おれはハッと我に帰った。
「うん、いいんだ・・・又、今度にするから・・・。」
エッエッエッと笑いながらおれはその場を後にした。
風に乗って、小さな声が耳に聞こえてはいたけれど・・・。
 「どうしたんだ?」
 「さぁなぁ・・・?」
 「うーん・・・まぁ、いっか。」ドサッ!!!
 「馬鹿っ、重いだろうが・・・」
 「ししししっ、おやすみっ、ゾロ。」 
 「・・・あぁ、おやすみ、ルフィ。」
「仲・・・良いんだよなぁ・・・。」
何故なのかなぁ、と考えながらおれは船室へと降りて行った。

〜ONE NIGHT〜
深夜、物音が聞こえてきておれは足を忍ばせ、部屋を出る。
聴覚がヒトよりも敏感なおれは、ずっとこの音が気になってたんだ。
やっぱり聞こえているらしいカルーが『よせよ!』と引き止めてきたけれど、どうしても正体が知りたくて音の出所を探しに行った。
ピクピクと耳を動かして、格納庫の前に行き着いた。
けれどそこには鍵がかかっていて、あれ?っと、も一つ首を傾げる。
(昼間はかかってなかったよなぁ?)
中からゴソゴソ物音がするから、誰かがいるとは思ったけれど、鍵をかける理由が思い当たらなくて、こっそり戸口に聞き耳を立てた。
 「んっ・・・痛てぇよ。ルフィ。」
 「わりぃ、ゾロ。痛かったか?」
 「つぅ・・あっ・・・んんっ・・動くんじゃねェッ・・」
 「でも、余計辛いだろ?」
 「バ・・・カ‥野郎。」
 「うん・・・後で舐めて直してやるよ。」
バカッという音の後は、ギシギシと床が軋む音と、吐息だけ・・・。
わけがまったくわからなくておれは、首を捻って船室に戻った。

〜TWO NIGHT〜
昨日の声が気になって、おれは又格納庫の前で聞き耳を立てる。
今朝、ゾロに『怪我してるのか?』って聞いたけど、『何の事だ?』ときょとんとされて、それ以上言葉に出来なかった。
でも、昨日の声が二人なのはわかっていたから、
『怪我するようなことはやめろよ。』って一言、言っておいてやろうと思ったんだ。
でも、今晩は・・・・・・。
 「ゾロ・・・ちょッ・・・待って・・・。」
 「あっ・・・ダメ・・だ・・ルフ・・ィ」 
 「待てって・・・俺、もたねぇし・・・」
 「んんっ・・ダメ・・・許さ・・ねぇ・・・」
 「ゾロッ・・頼むからっ・・・」
 「許さねェッ・・って・・言ってん・・だ・・ろ・・・」
戸口から耳を離して、考え込む。
昨日の喧嘩が尾を引いてるのか?
今夜はルフィが怒られてる?
うーん、うーん、と首を捻りながら、おれはその場を後にした。

〜THREE NIGHT〜
なんでだ?本当にまったくわからない。
昼間、あんなに仲良くしてるから、『仲直りしたのか?良かったな』って言ったら、 二人そろって『何、言ってんだ?』って、言い返された。
あんまりな二人の態度を見て、まるで二人が夜と昼で別々な人間に摩り替わっているのかと、本気で悩みそうになった。
だからやっぱり気になって、今夜も格納庫まで行ったんだ。
そうしたらいつもは鍵がかかっているドアが、今日は少しだけ開いていて、下に何かが落ちていた。
ほんの少しだけ押し開いて見たら、それはルフィの麦藁帽で・・・。
(なんで、こんな所に落ちてるのかな?)
そう思って手にとって見たら、つばの部分が何かに挟まれてたみたいに一部がクニャッと変形していた。
そして、気づいた。
ドアを開けているせいか、いつもはくぐもった声しか聞こえないのに、今日ははっきり会話が聞こえた。
 「んっ・・・やぁ・・ルフィ・・もう・・俺・・・」
 「ダメだよ、ゾロ。まだ、駄目だ。」
 「んんっ・・だって・・もっ・・あゥッ・・・」
 「ずりいぞ、ゾロ。昨日、散々文句言ったくせに・・・。」
 「んぁっ・・あっ・・・もう俺・・・駄・・目ェ・・・」
 「ゾロッ・・・」
 「うぁぁっ・・・んっ・・・もう、死ぬ。・・死・・んじゃッ・・あぁっ・・」
一際、大きなゾロの声に、おれは慌てて飛び込んだ。
だって、ルフィがゾロを殺すなんて事、させちゃいけないと思ったから。
「やめろよっ、ルフィ。死んじゃったら生き返らないんだぞ。」
至極当然の事を怒鳴ってやったら、二重唱の叫び声がした。
「うわぁ〜〜!チッ、チョッパー。」
「うっぎゃぁ〜〜〜〜!!!」
飛び込んだ中では、裸にされたゾロの上でルフィが何故かクタリとしていた。
真っ赤な顔をしたゾロが、必死でルフィを押しのけようとしていた。
「どっ、どけっ、どけぇー、ルフィー!!!」
でもおれは、慌てるゾロより、ルフィの方が気になった。
よく見ればわかるのだが、ルフィは真っ青な顔をして、何かを耐えるように歯を食いしばってたんだ。
「?どうしたんだ?ルフィ。」
そう聞いてやったら蒼褪めたままで、ルフィはおれの方に視線を向けた。
その様子に、やっと下にいたゾロが気づいたらしい。
暴れるのをやめ、ルフィに不思議そうな視線を向ける。
「ル・・フィ?どう・・・し・・た?」
「・・・ゾロ。頼む、力、抜いて・・・」
力ない声でそう言って、ルフィは大きく深呼吸した。
それから、おれの方を見て、
「わりい、チョッパー。少し向こう向いて、目瞑ってて・・・」
意味はわからなかったけど、ルフィがホントに辛そうだったから、おれはコクリと頷いて後ろを向いて目を瞑った。
 「ゾロ、ゆっくりでいいから力抜いて・・・」
 「な・・に・・言ってん・・・」
 「下、力抜いてくんねぇと、俺、抜けねぇし・・・」
 「えっ・・・エェッ・・・?」
 「いって・・ぇ・・・力、入れんなって。マジ、痛てぇ・・・」
 「・・・あっ・・でも、俺どうすりゃ・・・?」
 「ん〜〜〜???」
トントンと背中を叩かれて、おれは目を瞑ったままで返事をした。
「何だ?俺に何か出来ることあるのか?」
ルフィがうーっ、と小さく唸って、すまなそうに口を開いた。
「ホントにわりぃ。・・・耳も塞いでてくれるか?」
言われたとうりにギュウッと両手で耳を塞いで、おれは暫らく待っていた。
 「・・さ・・ごで・・・イカ・・・て・・や・・・」
 「あっ・・・うぁ・・・ル・・ィ・・・フィ・・・」
切れ切れな声だけが、耳の隙間から聞こえていた。

盛大に息を吐き出すルフィのため息が耳に聞こえてきた。
あれっ?と思ったら、両手首をルフィに捕まえられていた。
いつの間にか服を着ていたゾロと、まだ少し青い顔をしたルフィ。
それでも二人ともおれの方を見て、微かに笑ってくれてたから、つられるようにおれも笑った。
「あー、でもびっくりした。俺、ホント、ゴムでよかったぞ。」
ルフィの言葉にゾロが真っ赤になって俯いた。
「すまねぇ。まさか、あんな事になってるとは思わなかった。」
「んー・・・、まぁな。女にはあるって聞いてたけど、男にも似たような現象があるって思いもしなかったしなぁ。」
何のことだろう?疑問をそのままぶつけたら、
「えっとぉ・・・うー・・・多分、チ・・・・・・」
「やぁめぇろぉ〜〜〜!!!」
ゾロが羽交い絞めにするようにして、ルフィの口を塞いでしまう。
ゾロの姿が本気で嫌そうに見えたから、その事については追求しなかった。
そのかわりのように、おれは今までずっと聞きたかったことを口にしてみた。
「なぁ、お前たちって本当は仲良いのか?それとも、悪いのか?」
二人は瞬時に顔を見合わせて、ククッといきなり笑い出す。
「仲・・か?オイ、ルフィ。どうなんだ?」
「おう、俺はゾロを愛してんぞ!」
ルフィはしししっ、と笑いながらゾロの唇に素早くキスを落としていた。
「・・・・・・あほう。」
そのやり取りをジッと見て、俺はやっと納得した。
「そっか、やっぱり仲良しなんだな。良かった。
・・・だってさ、しょっちゅうゾロ、痛い思いしてたみたいだし、ルフィに虐められてると思って心配してたんだ。」
おれが笑顔でそう言ったら、ゾロが何故か質問してきた。
「・・・って、俺がいつ、虐められてた?」
「えっ・・・夜、いっつも泣かされてたろ?」
「なッ・・・・・・。」
そのまま絶句したゾロの横で、ルフィがお腹を抱えて笑い転げてた。
(おれ、変なこと言ったかなぁ?)
きょとんとするおれの前で、ゾロが少しだけ赤い顔で、笑うルフィを小突いていた。

そして、次の日の朝。
おれは、相変わらず船首に座るキャプテン・ルフィの背中を見つけた。
そしてそのすぐ側で、安らかな寝顔を見せるゾロの姿も・・・。
どこか平和なその空気に、おれは今日からぐっすり寝ようと考えていた。




UNDERへ

戯言:ありがた〜い、リクエスト物だったのに、なんでこんな話を書くのか《謎》
それも、(チ)ってなんでしょう?わかんない人はそのまま忘れ去ってくださいね。
知ってる人も、内緒ですよぉ〜〜〜!!!あぁ、ダメだ。壊れている。《逃亡》