<君の側に>




勝負は一瞬。
それがわかっていたから、どちらも動かない。
否、動けない。
ツツッーと汗が滴り落ちる。
風が二人の間を吹きぬけて行く。
『世界一の大剣豪』
その名を賭けた戦いの為、ゾロは生きてきたのだから。
ミホークがそんなゾロを見て微かに笑った気がした。

(負けられねぇ)
背後には海賊王の証を背にしたルフィがいる。
そして、次の快挙を成し遂げようとする仲間達も。
(俺は負けられねぇんだ)
一足先に野望を達成したルフィ。
ならば、俺がここで負けていいわけが無い。
(俺は・・・俺は・・・)
ギンと双眸に魔獣の瞳を宿して、ゾロが動いた。
「俺はっ!今度こそ負けねぇっ!!!」
キンッ!キンッ!と斬撃の音が弾ける。
流される切っ先に舌打ちを一つ。
それでも、今度こそは!
「ミホォーーークッ!!」
一声吼えたゾロの刃が渾身の速さと力を持ってミホークに襲い掛かった。
「ヌッ・・・。」

―――斬ッ!

「グゥッ・・・・・・」
ゾロの右足をざっくりと切り裂くミホークの剣。
けれど、ミホークからの反撃はもう無い。
何故なら―――。
「見事だ、ロロノア。」
ボタボタと滴り落ちる血。
ミホークの右の手は鬼徹に斬り落とされ、胸元は雪走に、そして首筋には和道の冷たい刃が押し当てられていた。
「主の勝ちだ。―――さぁ、トドメを・・・。」
フーフーとまだ荒い息のまま、ゾロはジッとミホークを見る。
この瞬間に『世界一の大剣豪』は新旧を交代したのだ。
不敵な笑みのまま、ミホークは軽く目を瞑り―――。
「―――しねぇ。」
小さな呟きとともに、ゾロの刀がミホークから外される。
ブンと言う空を斬る音が鳴り、続いてカチャリと鞘へ納められた音。
「―――殺さぬつもりか?」
「あぁ、必要がねぇ。」
「甘い・・・事だな。」
「うるせぇ―――いいんだよ、そんなのあいつも望んじゃいねぇから・・・。」
勝負が決まった瞬間の、あの喜びの波動。
ゾロの背中に痛いほど突き刺さってくる想い。
甘いと言われようが、馬鹿だと罵られようが、ゾロはこれでいいと思う。
ゾロの野望はすでに成ったのだから。
「くくくくっ、本当に主たちは我を越えたのだな。」
心底楽しそうに笑うミホークに、プイとソッポを向いて、ゾロはクルリと踵を返した。
「ソレ・・・まだこの世に未練があんなら、早くなんとかするんだな。ま、俺はお前がくたばろうとどうしようと、 しったこっちゃねぇけどな。」
ズルズルと斬られた足を引きずるようにして、ゾロは仲間の下へと戻る。
「フム、ならば我からも一つ忠告してやろう。強きものよ、決して生き急ぐでないぞ。」
意味ありげな視線でゾロの背中を追うミホークには気付かず、ゾロは軽く返した。
「は!それこそ大きなお世話だ!」
向かう先は、海賊王の隣り。
満面の笑みでゾロを待っていてくれるただ一人の男。
誇らしげに微笑むゾロに、仲間の瞳が賞賛で彩られる。
「ルフィ―――。」
「ゾロ。」
ルフィの腕が大きく開かれ、ゾロを迎える。
ゾロは微かに頬を染め、それでも祝いの言葉を述べようとする仲間の下へと近寄り―――。
「ゾロッ!」
クラリと視界がぶれる。
ルフィの声が、どこか遠いところで聞こえる。
それでも抱きとめられた腕は確かな温もりをゾロに与えてくれるから。
だからゾロは、その心地好さに酔いながら、ゆっくりと意識を手放していった。
その顔に微笑みを浮かべたまま。


目覚めると見覚えのない天井が目に飛び込んできた。
(お・・・れ・・・?)
ゆっくりと視線を巡らせれば、チョコリとした角が目に入った。
「・・チョッ・・・パー・・・?」
パッとベッドの上に目をあげたGM号の船医は、安堵の吐息とともにニッコリと笑った。
「良かった、ゾロ。お前、三日も眠り続けてたんだぞ!」
「み・・・三日・・・。」
正直、倒れた直後からそんなに経っているとは思いもしなかった。
倒れて目覚めたら今だったような気分なのだ。
だが、言われてみれば喉が痛いほど乾いているし、腹も減っている気がする。
「うん・・・・・・。あっ、あのなっ、ゾロ・・」
「んだよ。・・待っててもくれねぇのか、あいつは。」
チョッパーが何かを言おうとしたのに気付かず、ゾロはほんの少し拗ねた声を出す。
目覚めて一番に見たかった顔が部屋の中に居ないのだ。
「あ・・・あのっ・・・」
「たくっ、薄情な奴。どうせまた、飯に喰らい付いてでもいんだろうけど・・・。」
ゾロはサイドテーブルの上にあった水差しに手を伸ばし、首だけ起こして、直に口をつけて飲み干しハァーッと息を付く。
そのまま、水差しを治療用具の乗っているテーブルへと返し、空を睨みつけては「たくっ、あいつは・・・」と呟きはじめる。
ブツブツと目の前に居ない人物に文句を言い続けるゾロに、チョッパーが勇気を振り絞るように声を掛けた。
「あの・・・あのっ・・・あのなっ!ゾロッ!」
「ん?―――あ、わりい。なんだ?チョッパー。」
とりあえず、ここに居ない薄情者へ一通りの文句を呟いた後、ゾロはチョッパーに視線を向けた。
「ずっと、看ててくれたんだろ?ありがとな、チョッパー。」
怪我や病気には、船中の誰よりも心を配るこの船医にはお世話になりっぱなしで。
「もう、大丈夫だから―――お前、ちゃんと寝てたか?」
よく見ればチョッパーの瞳が充血している。
自分が目覚めるまで、もしかすると一睡もしていないのでは無いかと、ゾロは逆に不安になった。
不意に掛けられた優しい言葉にチョッパーがグッと詰まる。
慌しく視線を動かした後、フルフルと首を振って。
「ねっ、寝てる。俺は、大丈夫だ・・・。」
「そうか―――本当に、ありがとうな。」
そっとベッドの上から伸ばされたゾロの手がチョッパーの角に優しく触れたとき、チョッパーはボロボロと泣き出してしまった。
「チョッ、チョッパー?」
船医の突然の涙に、ゾロの方が慌てた。
「ゴッ・・・ゴメン・・・ゴメンなぁー・・ゾロォ・・・。」
謝り続ける船医にゾロは首を傾げて。
「―――何で、謝るん・・・。」
「オレ・・オレが・・・もっと名医だったら・・・そしたら・・・・・・。」
「チョッパー?」
顔を覆って泣くチョッパーを、放って置けなくてゾロは身体を起こそうとし―――気付いて・・・しまった。
「右・・・足・・・。」
ポツリと呟いたゾロに、チョッパーが涙でグシャグシャになった顔を上げる。
「俺の・・・右足・・・・・」
そこに確かにゾロの足は存在しているというのに、付け根から先はまるでただの丸太のようにピクリとも動かせない。
視線を合わせたチョッパーが、グイと涙を腕で拭って、辛そうに宣告した。
「繋げるだけで・・・精一杯だったんだ。」

あの時、倒れこんだゾロをルフィが抱きとめた。
ドクドクと足を伝い落ちていく血の量に、貧血になりかかっているのだろうとは容易に知れた。
慌ててチョッパーが傷の形状を調べて、そのあまりの深さに愕然とした。
白い骨が赤い肉の間から姿を見せる。
砕ける一歩手前の白い骨が、かろうじて腿から下を繋ぎ止めている。
断ち切られた神経が、切断面を鮮やかに彩り、その鋭い切り口に眩暈さえしそうになる。
これでどうして歩けたのか、不思議なくらいの―――。
「チョッパー!」
一瞬呆けたチョッパーをルフィの声が覚醒を促した。
「あ・・・ここではダメだ!どこか安静に出来る所に・・・・・・」
コクンと頷いたルフィがゾロを抱き上げるのと同時に、ナミが先頭に立って走り出した。
「ここから少し行った所に、確か小さな村があったはずだから・・・宿屋でいいわね?」
その声を追いかけるように、サンジがその後ろを走り。
「船からありったけの治療用具を持ってくる。・・・ウソップ、お前も手伝えっ!」
「おっ、おうっ!」
各々の出来る事を一瞬で見極めて、ただ一つの事に全力で動き出す。
――――ゾロを助けたい!――――
「チョッパー!行くぞっ!」
ルフィはチョッパーに一声促し、ゾロを抱いたまま走り出した。
チョッパーもグイッと帽子を被りなおし、片手に愛用の治療バッグを持ちながら、ルフィを追いかけた。

「―――宿屋についてすぐに治療したんだけど・・・。」
もう一度ベッドの上へと横になったゾロは、チョッパーの話を聞き終えると、ポツリと呟く。
「そう・・・か。」
「ゾロ・・・・・・。」
また潤み出したチョッパーの頭をポンポンと叩いて、ゾロは「ソレで・・・」と聞き返した。
「本当の事を言え。―――俺の足はもう・・・・・・。」
キュウッと目を瞑り、チョッパーはコクンと頷く。
「―――でも、まったくじゃないんだ!ちゃんと治療をしていけば、きっと歩けるようになる! ただ・・・今までみたいには動けないだけで・・・・・・。」
言いながら、チョッパーは残酷な事を言っていると思った。
利き足の動きが鈍ると言う事は、ゾロの剣士の生命を奪う事と同じ―――。
そして、世界中の剣豪の頂点に立ったゾロには、安静の日々などきっと皆無で。
ならば、ゾロが向かう道は――――。
「チョッパー。・・・わりぃけど、一人にしてくれるか?」
「ゾ・・・・」
「な?―――頼む・・・から・・・」
重ねて言われて、チョッパーは迷いながらも部屋を後にした。

チョッパーの出て行ったドアをゾロは暫し見つめていた。
やがてゾロは両腕で顔を覆い。
「クッ・・・ハハッ・・アハハハハッ!」
乾いた笑いが部屋の中に響き渡る。
そして、脳裏に浮かぶミホークの最後の言葉。
――――生き急ぐな!
「―――こういう・・・意味かよ。」
あの時、ゾロは勝利の昂揚感に酔って、己の体の状態など考えもしなかった。
ミホークの最後の一撃は、ゾロに多大なる傷を残していたというのに。
「―――ちく・・・しょう・・。」
どんなに動かそうと意思を込めても、ピクともしない己の右足。
ゾロはギリと奥歯を噛みしめ、バシッと右手で殴りつけた。
「コレが・・・『世界一の大剣豪』の姿かよ・・・。」
満足に立ち上がることすら出来ない、コレが――――。
そして、唐突に気づいてしまう。
『世界一の大剣豪』
その称号を背負った自分は、今度は世界中の剣豪達にその座を狙われる立場なのだと。
それは少なからず、強敵を呼び寄せると言う事で。
同時に仲間達を危機に陥れると言う事で。
その事実にゾロは両手で自分を抱きしめる。
「サイテー・・・だ。」
ホロリと一粒の涙が零れ落ちた時、カチャリとドアが開けられた。

ゾロは慌ててソッポを向き、何事もなかったように装う。
「一人にしろって言っただろっ!」
語尾が震えていない事を祈りながら、入ってきた人物にそう怒鳴りつけて。
「ゾロ・・・。」
聞きたかった声が耳に滑りこんでくるのに、それを喜べない自分にまた涙が出そうになった。
「俺はッ!眠いんだよっ!さっさと出て行けっ!」
どんなに怒鳴りつけても、ペタペタと足音は近寄ってくる。
「ルフィっ!」
「ゾロ、すげぇな。さすが、海賊王の船に乗る剣豪だ。」
「ルッ!」
ギシッとベッドが軋む。
ルフィがゾロの腰の辺りへと座り込み、軽く寄りかかるようにしながら手を伸ばした。
「次は・・・ナミかな?それとも、サンジかな?」
優しく髪を梳きながら、楽しそうに呟くルフィに、ゾロはグッと唇を噛む。
髪を梳くルフィの手をパシリと振り払いながら。
「ルフィ。―――俺はここで船を下りる。」
振り払われた手をベッドの端に掛けながら、ルフィは小さく呟く。
「嫌だ・・・・・・。」
「ルフィ―――聞いたんだろ?チョッパーに、俺の・・・足の事。」
「・・・・・・あぁ。」
「なら、わかんだ―――」
「でも、ゾロは置いてかねぇ。俺達は仲間なんだから・・・」
ルフィの言葉にゾロは一つ舌打ちをする。
言いたくない言葉を口にさせるルフィを、恨みそうになってしまう。
「そのせいで仲間が危機に晒されても、お前はそんな甘ぇ事を言ってられるのか?」
「ゾロ!」
言わなければいけない。
そうしなければ、ゾロは自身を許せなくなる。
「俺は剣士なんだっ!死ぬまで、いや、死んだって剣士なんだよ。 だけど、利き足を失って戦えなくなった剣士なんざ―――もう、死人なんだっ!」
戦えなくなった自分は、ただの足手まといでしかない。
ゾロの背負った称号は、弱者に名乗られる事を一時でも許しはしないだろう。
ましてや、そんな自分が『海賊王』の船にこのまま乗り続ける事など・・・。

ミシリと音がする。
ルフィの腕が青筋を浮かべてベッドを握りしめている。
壊れてしまわないのが不思議な程の力で。
背を向けたままのゾロは、ルフィの変化に気付くのが一瞬遅れた。
「なら―――死人を、俺がどうしようと、勝手だよなっ!」
強引に毛布を剥ぎ取り、ゾロの身体を仰向けにする。
「ルッ!」
圧し掛かり、顎を捕まえ強引に唇を奪い。
「んッ!・・・んんーっ!!!」
抗う腕から黒手拭を抜き取り、両手を纏めてベッドの端へとくくり付ける。
抵抗を封じ込めながら、シャツを捲り上げ胸元を露にすると、桜色をした突起をキュウと摘み上げて。
「フッ・・ん・・・ンゥ・・・・」
微かな呻き声もルフィの喉へと飲み込まれていく。
僅かな合間にルフィはゾロを否応も無く、快感へと押し上げて。
「あっ・・止めッ・・・・止めろぉ!」
治療の為、下半身に下着一枚しかつけていなかったゾロは、嫌でも勃ち上がる自身を自覚する。
ルフィもすぐに気付き、頼りない布の上からその固さを確かめるように、何度も撫で擦られ。
「あっ・あっ・ヤッ・・ンッ・・・あぁっ!」
布越しの愛撫にゾロの頬が羞恥に染まる。
先走りを滲ませたゾロのモノにペロリと唇を舐めたルフィはチュッと口付けを落とし。
「うぁっ!嫌だっ、やめろぉぉっ!」
「うるせぇよ、ゾロ。」
手を伸ばしたルフィに、口を塞がれる。
「声、出すな。お前は・・・死人なんだから・・・。」
信じられない言葉に、ゾロは目を見開く。
ブンと首を振って、ルフィの手から逃れると、
「ふざけるなっ!なに、考えてんだっ!」
「うるせェって、言ったぞ。」
ルフィの手が今度はゾロの喉を締め付ける。
「グウッ!」
「黙って、そうしていろ。」
上から見下ろしてくるルフィの冷ややかな目に、ゾロはブルリと震える。
途方も無い怒りの波動に、心が凍えそうになる。
(それほど、俺が・・・)
視線を逸らせたゾロは、キュッと唇を噛んで声を殺した。

「ん・・ふ・・・あっ・・・ン・・」
ユサユサと揺さぶられながら、ゾロは必死で声を殺す。
冷ややかな視線に晒されながらのSEXに、心が壊れてしまいそうになる。
なのに、身体に与えられる快感は時間を追うごとに、深く熱く激しくなっていく。
「んっ、もっ・・・もっ・・イ・・く・・・」
途端ギュウと根元を止められる。
「ヒッ!ア・・・」
同時に注ぎ込まれた迸りに、ゾロはビクッと身体を戦慄かせ。
「あ・・・ル・・」
何故?と問うように潤んだ瞳がルフィを見る。
「―――ゾロ、嬉しいのも、気持ち良いのも、みんな生きてる人間の特権だ。」
「う・・・」
「死人は何も望めねぇ・・・。何も、な。」
それが自分の望んだ道なのだと、ゾロは今更ながらに思い知らされる。
剣士として生きられない自分は死人なのだと、そうルフィに告げたのは自分。
それでも、欲望の火は身の内を駆け巡り、解放を望み。
ゾロを見つめていたルフィは、フイと顔を巡らせ、サイドテーブルの上に置かれた包帯に目を止める。
握りしめていたゾロのモノにそれを巻き付け、キュッと根元を縛り上げる。
「ヤッ・・・ル・・・フィ!」
引き抜かれたルフィ自身にすら身体が反応してしまう。
放たれたルフィの熱情がゾロの奥底で異物感をもたらし、そこだけがいつまでも熱くて。
冷ややかな視線はそのままに、ルフィはまたゾロを追い詰め始めた。

「も・・・許し・・て・・・く・・。」
再度の挿入はされないまま、ルフィはゾロの全身に愛撫を施して行く。
解放されない熱情に、ゾロの意識は混濁し、身体が限界を訴え。
「頼む・・から・・・おねが・・・。」
涙ながらにこう懇願すれば、いつものルフィなら許してくれるはず。
「なん・・でも・・・スルか・・ら・・・。」
そう、どんなに酷いお仕置きの時でも。
どんなに怒りが深くとも、いつものルフィなら―――。
なのに、今回に限ってルフィの救いは得られない。
「あ・・ンッ・・・たの―――ルッ、アァッ!」
快感を与える指先と唇。
それだけがゾロに触れてくるもの。
縋りつく腕は戒められていて、ルフィは意図的にゾロの身体に触れないように身体を浮かしている。
身体だけが燃えるように熱いのに、未だ解放の許しは得られない。
時折、張り詰めたルフィのモノがゾロのモノに触れ、それだけで、もう―――。
「ル・・・フィィ・・・」
黙って居ろと言われた事など、ゾロの頭には残っていない。
ルフィもゾロの言葉を遮る事はしていない。
何かを待つように、ルフィはゾロのモノに口淫を仕掛け始めて。
「あっ・・・ど・・すれば・・許し・・て・・・。」

――――死人には何も出来ねぇ・・・

ルフィの言葉がリフレインのように脳裏に木霊する。
なら、今の自分は?
口も・・・利ける。
快感を感じる事も、涙を零す事も・・・。
そして、こうして考える事も・・出来る。
ならば、自分は死人にはなれない。
白濁する意識の底で、ゾロは甘い苦痛に耐えながら、必死で考える。
願っても、請うてもダメなら、あと自分に出来る事は―――。
「ル・・フィ・・・助・・・」
ルフィの攻めが僅かに止まる。
見上げてくる視線に不思議な色合いを込めて。
「ルフィィ・・・助けて・・く・・・」
痛む喉から救いを求める言葉を言い終わる前に、ルフィのキスが振り落ちてきた。
「んっ・・・ふ・・ぅん・・・」
優しく、それでいて激しい口付け。
息も絶え絶えに、唇を離したルフィを見上げれば、ルフィは微かに微笑んでいて。
「そう・・・それで、いい。」
「ル・・・」
ゾロに圧し掛かるようにして手首の戒めを解いてゆく。
詠うような言葉を続けながら―――。
「ゾロが戦えねぇ時は、俺が背中にいる。俺がもし居なくても、あいつらが必ず・・・。」
「・・・・・・。」
「その為の仲間だし、俺の船はそういう船だろう?」
ゾロは解かれた両手をオズオズとルフィへと伸ばした。
ずっと欲していたルフィの温もりを確かめるように、ギュウッと抱きしめて。
「だから、それでいいんだ。―――キツイ時は助けろって言え。・・・俺、昔、そう言っただろ?」
記憶の底から浮かび上がる一つの言葉。
朦朧とした意識の中、あの言葉は自分の中に刻み込まれていたはずなのに。
 
――――俺は、助けてもらわねぇと、生きていけねぇ自信がある!

そう、そうだな。
たった一人では生きて行けない。
支えて、支えあって、楽しみも苦しみも分け合って。
一人じゃない事の喜びを、お前に教わってきたはずなのに―――。
「だから、馬鹿な事言うな。海賊王の船には世界一の大剣豪が乗っているんだ。これからもずっと―――。」
「ルフィ―――。」
抱きしめる力が強まる。
温かいものが全身を満たす。

本当は―――降りたくなど無かった。
仲間のいる船から。
自分の大切な場所から。
実現した野望の先に、いつからか思い描き、望んでいたたった一つの居場所。
『海賊王』の『ルフィ』の側から―――。

ハラと零れ落ちる涙をルフィの唇が吸い取ってゆく。
そのたびにトクンと心臓が高鳴り、忘れていた快楽が身の内を駆け回る。
「ル・・フィ・・・・・」
小さく呼ぶ声に、ルフィはコクと頷いて。
「うん、俺も限界だからな。」
抱え揚げた両足の間にルフィはその身を滑り込ませる。
ゾロの太腿に巻かれた赤く染まる包帯に、一つ口付けを落として。
伸ばされた指先がゾロの秘所に潜り込み、クチュリと中を掻き回す。
それだけでまだ根元を止められたままのゾロのモノはジワリと先走りを滲ませてくる。
指の感触がぬめりを帯びて、抽挿を容易にし始めた時。
「まだキツイだろうけど・・・ゴメンな。」
小さな呟きとともに、ルフィの熱がゾロの秘所に押し当てられ、グウッと一気に貫いた。
「ひぁっ・・・ンッ・・・あぁっ!」
ブルリと身体が震える。
痛みよりも快感が凌駕する。
望んでいた熱さが何度も出入りするたび、全身に広がる甘い痺れに身体が戦慄き、嬌声が迸り。
不意に伸ばされた手がゾロの戒めを解こうとする。
「まっ、ダ・・メッ!そ・・レ・・外・・され・た・・ら―――もた・・な・・・・っ!」
もっと――――もっと、味わって居たかった。
この甘美な官能を。
身体中に広がる、切ないほどの想いを。
ルフィの心が見えないままの責め苦は辛いだけだった。
けれど、不安も悲しみも何もかもをルフィに取り去られた今は、ただ純粋にルフィを感じていられる時間。
あんなに解放して欲しかったのが嘘の様に、終わらせてしまう事を躊躇する。
「この・・・ま・・ま・・・」
「ゴメン!無理っ!」
切羽詰った声とともに、シュルリと戒めが解かれる。
ビクビクと震えていたモノに全ての熱情が集まり、同時にルフィのモノがゾロの最奥まで貫き。
「うぁっ!あぁぁぁぁっ―――」
真っ白になってゆく脳裏に最後に記憶されたのは、薄っすらと汗ばむルフィが、ホンの少しきつそうに微笑んでいる顔だった。


落ちたゾロの身体を軽く拭き清めて、ルフィはフウッと息を付く。
思いついたように自分の身体も拭きながら、窓辺へと視線を向けた。
確か、ここへ来たのが陽が落ちるかどうかの時刻だったはず。
緩やかに夜へと移行する前の茜色が差し込んできていたから―――。
なのに、今はもう柔らかな日差しがカーテンの隙間から降り注いでいる。
あのカーテンを引き開けて、朝の光を全身に浴びたい衝動に駆られるけれど、 安らかな眠りを貪るゾロを起こしてしまうのは忍びなくて。
もう一度ベッドの上のゾロに視線を戻して、ルフィはクスッと笑った。
「・・・良かった。さすがに持たねぇかと思った。」
最初に一度イっていたとはいえ、ゾロの裸身を、乱れる姿を、願う声音を前にして、 どこまで持つかは本当に賭けのようなものだった。
それほど、ルフィはゾロに対して理性が乏しいと自覚しているのだ。
「―――まっ、俺は負けねぇけど!」
のほほんとそう呟き、不敵な笑みを浮かべる。
「それに―――ダメでも船に乗せちまえば、なんとでもなっただろうしな。」
クスクスと不穏な事を考えながら、ルフィは衣服を整え、ゾロの額に軽いキスを落とす。
ベッドからトンと降りると、隣りの部屋でルフィの首尾を待ち侘びているだろう仲間達のもとへ足を向けた。

カチャリとドアを開ければ、徹夜したのだろう事がありありとわかる仲間の顔に出迎えられた。
「明日には出れそう?」
ナミがお疲れ様と言うように、クスリと笑って声を掛ける。
「ん?今日でも大丈夫だろ。」
「えっ!・・・でもよぉ、ルフィ。ゾロ・・・立てんのか?」
ウソップがホンの少し迷いながら、そんな事を聞いてくる。
ルフィはチョッパーに視線を向けて。
「支えがあれば、船に戻るくらいは大丈夫だろ?」
コクンと頷いたチョッパーに「だってよ。」と言うように、ルフィはウソップを見た。
けれど、ウソップは
「いや、そうじゃなくって・・・・・・。」
モゴモゴと言いよどむウソップにルフィは首を傾げた。
「なんだ?ウソップ、はっきり言・・・!!!」
言えよと言い終わる前に、ゲシッ!と横からサンジの蹴りが飛んで来た。
なんなんだぁ〜?とサンジを見上げてくる鈍い船長に一つため息を付いて。
「クソゴムッ!お前が立てなくさせたんだろうがっ!」
そう一声怒鳴り、胸元からタバコを出して咥える。
ルフィは蹴られた頭をサスサスと撫でていたが、そうか!というようにポンと一つ手を叩いた。
そのまま悪びれもせず、にしししっと笑う。
「そだなぁ〜、今は立てねぇだろうな。―――目が覚めても立てなきゃ、俺が連れて行くし。」
ククッと嬉しそうに笑うルフィを見ていれば、ゾロの運ばれ方は想像がつく気がする。
けれどその不運には船員一同、目を瞑って、無理矢理に笑顔を作った。
「じゃぁ、ゾロが起きたら・・・で、いい?」
ナミが結論を纏める。
「おう!それでいいぞ!」
ルフィがそれに応じ、仲間達が大きく頷く。

まぁ、船に戻る際にまだ一波乱の予感はあるのだが、
とりあえずは、誰一人欠けることなく、又航海へと戻れる幸福に、皆は心から微笑んでいた。



追記:
×年後。
驚異的な回復力と治癒力、そして最高のリハビリ環境を味方につけた大剣豪は、程なく完全なる復帰を果たす。
もちろん、その背にはしっかりと『世界一の大剣豪』の称号を背負ったまま。
その後、彼が没するまでその称号は彼の物であり続ける。
『世界一の航海士』と『世界一の狙撃手』と『世界一のコック』と『世界一の名医』の称号を持った仲間達同様。
ただ一人の『海賊王』の側で、永遠に――――。



戯言:いっ、痛かったでしょうか?
言わせて見たかった言葉の為に、ゾロ・・・ごめんね(至極、反省!でも鳥頭ピヨピヨ)