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脱「囲い込み」のCRM

(´ー`)ノ< こんにちわ、吉川幸雄です。

10月30日に日経BP社が主催するITセミナー「実践eCRMカン
ファレンス」に参加してきました。会場は目黒雅叙園でした。
雅叙園も結婚式の多様化や少子化の影響等によって経営が厳しいの
か、さまざまなセミナーを受け入れているようです。セミナーが終
わって、雅叙園から背広姿の男たちがぞろぞろ出てくる光景はちょ
っと異様でした。

セミナーは全体的に、視点のずれた講演や宣伝ばかりであまり面白
くなかったのですが、早稲田大学商学部教授の根来龍之氏が行った
基調講演

「脱『囲い込み』のCRM オープンパートナーシップ経営」

は、一般に語られるCRM論とは少し視点が変わっていて興味をも
てました。今回はその根来教授の講演ダイジェストをお届けします。

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◇「望ましい顧客関係」に関する企業の論理と顧客の論理

CRMの定義は「顧客情報の一元管理と共有化を基礎にして、望ま
しい顧客関係を作り出し、維持する活動」である。
しかし、「顧客関係」という言葉が企業側にとって望ましいもので
あるか、顧客側にとって望ましいものであるかで、その関係に大き
な違いが出てくる。

具体的に説明すると、まず顧客関係の深化を図式化すると、

見込み客
 ↓
顧客
 ↓
ひいき客

となる。これを企業側の論理で見ると、

見込み客・・注意をひきつける
 ↓
顧客・・・・買わせる
 ↓
ひいき客・・逃げられないようにする

となってしまう。一方、顧客にとってみては、

見込み客・・買っても良い
 ↓
顧客・・・・試しに買う
 ↓
ひいき客・・ひいきにしてあげる

と考えたいのが心理であって、企業の奴隷になりたいと考える消費
者はいないでしょう。
つまり、顧客満足の視点から見た顧客の深化の図式は、

見込み客・・興味を持ってもらう
 ↓
顧客・・・・買って満足してもらう
 ↓
ひいき客・・また買って満足してもらう

と考えることが、顧客にとって望ましい顧客関係を形成するために
企業側にとって必要となる。

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◇なぜ、企業側の論理に陥ってしまうのか?

CRMを語るときのキーワードとして使われる用語に「囲い込み」、
「ロックイン」、「ロイヤリティ」というものがある。

「囲い込み」は塀を作って逃げられないようにする、というのが本
来の意味であり、「顧客が自社製品を継続して購買する」、という
意味に使われるのであればよいのであるが、「顧客が自社以外から
製品を買うと損をする」というふうに考えるのは、企業側の論理と
なる。

また、「ロックイン」の本来の意味は、カギをかけて閉じ込めるこ
とであり、この場合、顧客が自社製品に特別な愛着を持つ、と考え
られればよいのであるが、「顧客が自社以外から買うことができな
い」状況にしてしまうと、それは顧客にとって望ましい関係とはい
えなくなってしまう。

「ロイヤリティ」についても同様であり、ロイヤリティの本来の意
味は「忠誠、忠義」であるが、これを「顧客が自分に不可欠なもの
と考え、自主的に自社製品の購入してくれる」となればよいが、
「企業が自社製品を顧客に無理やり押し付ける」と考えてしまうこ
とも少なくない。

企業がこのような「企業側にとって望ましい顧客関係」の思想に陥
る要因として、

(1)収益性の高い顧客を選別したいと考える「顧客選別」の考え方、
(2)長く、継続的に取引したいと考える「継続的な取引」、
(3)顧客が生涯に購入する自社製品のシェア(LTV=ライフタイ
 ムバリュー)を拡大したいと考える「顧客シェア」の考え方

の3つが挙げられる。

つまり、顧客に十分な情報を提供しないで、とにかく購入させてし
まうことで「関係」をスタートさせ、顧客に継続取引による「便
益」を提供し、他社製品を選択すると損をする「スイッチングコス
ト」を課すことで顧客を囲い込みたいと考えがちとなってしまう。

この考え方は、企業側にとって望ましい顧客関係であって、顧客に
とって望ましい関係とはいえない。

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◇理想の顧客関係を形成するためには・・・

理想的な顧客関係を考えるための3つの軸として
(1)「透明性」
(2)「継続による利便性」
(3)「低いスイッチングコスト」

が挙げられる。つまり、顧客の視点に立ち、顧客選別を逆に企業選
別とするために、

(1)顧客に製品選択のために必要十分な情報を提供し、
(2)製品を乗り換えたときにムダになる投資をさせず、
(3)結果として継続的な取引ができるときに「継続すると得られる
 メリット」を提供する

ことが必要となる。具体的には、
企業に求められる製品(サービス)の透明性として、

・製品(サービス)の内容が公開されている
・コストが公開され、製品の付加価値が明らかになっている
・試用期間を認める
・他社との比較情報を公開している
・比較を拒否しない
・自社へのクレーム情報を公開している
・第三者による比較が可能である
・購買代理者の介入が可能である

を企業側が提供することが必要となる。

また、顧客から見た継続による利便性を提供するため、

・反復による割引サービス
・個別ニーズへの即応性
・タイムリーな情報サービス

等の方法をとることが必要となる。

さらに、スイッチングコストを低くするため、

・ランニングコストを傾斜型にする
・インターフェイスの標準化を図る
・人間関係(義理)ではなく製品の機能、品質で競争する
・顧客にノウハウがたまるような仕組みをつくる

等の方法により、スイッチングコストの負担をかけさせないような
工夫が必要である。

結論として、企業は顧客とのオープンパートナーシップ関係への移
行を図るべきである。

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◇講演を聴いて

「囲い込み」「ロックイン」「ロイヤリティ」という、CRMを語
る上で欠かせない用語は、使い方・考え方に注意する必要がある。
さもなければ、企業側にとって「望ましい顧客関係」を形成してし
まい、逆に顧客を失ってしまうことになりかねない。

この考え方は、日頃CRMの勉強をしているものにとって、十分留
意する必要があると思いました。

CRMについては、私もいろいろ勉強しています。自分なりの考え
がまとまったら、メルマガで書いてみたいと思っています。

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皆様からのご意見、ご感想をお待ちしています。
それでは、また来週。(´ー`)ノ