農村情報化施策の評価に関する提言

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農村情報化施策の評価に関する提言
1.評価の目的
(1)地域住民に対する行政の説明責任を徹底すること
(2)住民本位の効率的で質の高い行政を実現すること
(3)住民の視点に立った成果重視の行政への転換を図ること

2.評価の対象
評価の対象は、地方公共団体、農協等公的機関が実施する情報化施策及び事務事業とする。

3.評価の時点
(1)事前評価
施策及び事業の企画立案段階において、施策及び事業の妥当性、必要性、有効性を評価。
また、運用後の行政評価を行うための目標設定を行う。

(2)事後評価
情報システムの運用段階において、システム運用の効率性、有効性を適時(1年毎)評価する。
また、情報技術の急速な進歩状況を鑑み、代替する情報システムとの比較検討を行う。

4.評価の視点
(1)妥当性・必要性
●施策及び事務事業の目的が地域のニーズに照らして妥当か、上位目的に照らして妥当であるかを評価。
●行政関与のあり方から見て公的機関が担う必要があるか評価。
(2)有効性
●施策及び事務事業の実施により、期待される効果が得られるか、また実際に得られているか評価。
(3)効率性
●投入された資源量に見合った効果が得られるか、または実際に得られているか評価。
●必要な効果がより少ない資源量で得られるものがほかにないか評価
●同一の資源量でより大きな効果が得られるものがほかにないか評価。

5.評価結果の施策及び事業への反映
●事前評価の結果は、施策及び事務事業の採用の有無、予算枠の検討資料とする。
●事後評価の結果は、情報提供サービスの方法(回数、提供形態等)の検討及び代替案の検討資料とする。


情報化施策の評価手法

1.基本的な考え方
●地域の情報化施策に基づいて整備される情報基盤や情報システムは橋や道路などと異なり、それがそこにあるだけでは機能しない。
●行政や農業分野等に係る情報提供サービスを行うことによって、初めて情報化の効果が発現する。
●ところで、情報化施策を事務事業レベルで見ると、情報基盤の整備と情報提供サービスに分解される。
●情報基盤の整備は公共事業として、また情報提供サービスは公共サービスとして捉えることができる。
●そこで、公共事業としての情報基盤の整備は、費用便益分析によって評価を行う。
●ただし、情報化の社会的便益(経済効果)を正確に測定、または推計する手法は開発されておらず、費用便益分析のみでは、情報化施策の妥当性や効率性を的確に評価することは困難である。
●そこで、定性的分析で補うことによって、情報化施策の公共事業としての妥当性と効率性を評価する。
●一方、費用便益分析と定性的分析は、施策の企画立案時点での事前評価は行えるが、情報提供サービスとして運用されてから以降、効率性・有効性について事後評価を行うことができない。
●そのため、運用段階では業績指標評価法を用いて、公共サービスとして情報提供サービスを評価する。

2.情報基盤の整備の評価
(1)費用便益分析
●情報基盤整備の費用として、建設費、維持費、運営費を採用する。
●運営費を費用として採用する理由は、情報基盤が施設そのものが価値を生み出すものではなく、情報提供サービスとして運用されて初めて経済価値を生むものであるためである。
●そして便益は、社会的便益、加入料収入、利用料収入、広告収入を採用する。
●なお、社会的便益の測定、または推計する手法は、改めて検討する。

(2)定性的分析
●情報基盤の整備と運用によって生じる便益及び費用を定性的に記述する。

3.情報提供サービスの評価
(1)情報提供サービスの評価に用いる業績評価指標の考え方
●業績指標評価は、施策の企画立案段階において、評価対象となる業績指標と目標を設定し、実施後定期的にモニタリングすることによって、達成度を評価する方法である。
●業績指標と目標は、達成状況が測定できるように定量的に比較可能な形式で設定する必要がある。
●また業績指標は、提供する情報サービスの上位目的に対応した形で設定する必要がある。
●さらに情報提供サービスの場合、業績指標を設定するにあたって、情報提供サービスによって生じる効果を特定する必要がある。
●以下では、情報提供サービスの業績指標の考え方を整理する。

@認知率・入手率
●例えば、「市況情報の活用によって、有利販売が図られる」という効果があると考えられる。
●この場合、一般に「主要農産物の販売価格」が指標として捉えられることが多い。
●しかし、農産物の有利販売は、品質、天候、作柄、競合産地の動向等多様な要因が組み合わさって生じるものであり、情報提供サービスの効果として特定することは無理がある。
●また、有利販売の実現に果たした情報提供サービスの効果部分のみを抽出することも困難である。
●そこで、「市況情報の活用によって、有利販売が図られる」という効果を、発生する事象ごとに分解してみる。

「市況情報の活用により、有利販売が図られる」効果の分解

市況情報の収集

市況情報を発信する(情報を分析する)
           ↓                ここまでが情報サービスの効果
農家が市況情報を入手する            ↑
↓              ―――――――――――――――――――
農家が市況情報を分析する

農家が市況動向に応じて出荷調整を行う

農産物が高値で販売される

●「市況情報の提供」という情報提供サービスの効果は、農家の情報入手段階までに限られ、その後の展開は農家の意志や作柄等外部要因の影響が大きくなってしまう。
●このことから、「市況情報の提供」という情報提供サービスの効果を表す指標は、農家の市況情報入手率に設定するのが適切と考えられる。

市況情報を入手する農家率(%) = 市況情報入手農家数/全農家数


●一方で、有利販売の実現に向けた農家や関係機関の取組みを促進する上で、上位目的である「主要農産物の販売価格」を参考指標として採用することが望ましい。

●また、図書館の新着図書情報の場合で見ると、それがベストセラー小説か専門的学術書かでは、利用者数に大きな隔たりがあり、「図書の貸出数」といった指標では適切に評価できない。
●そのため、「新着図書情報の認知率」を指標として設定することが適切と考えられる。
●また、この場合も上位目的である「図書の貸出数」を参考指標として採用する。

<参考−テレビ広告の効果>
●テレビ広告は、「商品情報を提供することによって、販売促進を図る」という目的を有する。
●しかしテレビ広告の場合、広告の効果を「商品販売額」で評価することはあまりない。
●商品が売れるためには、広告だけでなく品質、パッケージ、流通等多様な要因が影響を及ぼしており、広告だけの効果を取り出すことが困難なためである。
●そこで、広告の効果を評価する指標として「GRP」という数値が使われる。
●GRP(Gross Rating Point=総視聴率)は、広告出稿で得られた視聴率の合計である。
●つまり、出稿した10本の広告がそれぞれ20%の視聴率だった場合、GRPは200%となり、単純に見ると、国民全員が2回、その広告を見た計算になる。
●GRPの値が大きいほど、販売促進効果が大きいことは、これまで多くの研究で立証されているため、広告の効果はGRPによって評価される。
●つまり、「より多くの人に知らせたほうが、より多く販売できる」ということになる。
●地域における情報提供サービスについても同様であり、「より多くの住民に知らせたほうが、より多くの効果(アウトカム)を得られる」ことになる。
●このことから、情報提供サービスを「情報の認知率(到達率)」で評価することは妥当であると言える。

A到達速度
●従来、広報誌や掲示板、回覧版等によって行われてきた情報の提供が情報システムによって、迅速かつ効率的に行えることが、情報提供サービスの効果と見ることができる。
●例えばある地域では、防除情報の伝達に回覧版を利用していたため、全ての農家に伝わるのに2週間を要していたという。
●この場合、情報システムによって情報伝達期間が短縮されれば大きな効果といえる。
●このことから、「防除情報の提供」という情報提供サービスの評価指標は、「情報発信後翌日の情報到達率」が適切と考えられる。

翌日の防除情報到達率(%) = 情報発信翌日までに情報を認知した農家数/全農家数


●ただし、この場合も上位目的である「病虫害被害額」を参考指標として採用することが望ましい。

(2)地域における情報提供サービスの業績評価指標
●地域における情報提供サービスは、地域ごとに目指す方向(地域ビジョン)が異なるため、一律に評価指標を設定することは適切ではない。
●ここでは、一般的と思われる業績評価指標を掲げるが、施策の企画立案段階において、各地域で以下の各分野において自らの地域ビジョンに対応した評価指標を設定する必要がある。

@行政一般分野
A保健・福祉分野
B教育・文化分野
C産業分野(農業・商工業・観光業)
Dその他生活分野

●ただし、提供する情報全てを指標化することは評価コストの面等から現実的ではない。
●そのため、各分野で4〜5個の指標設定に留め、行政課題や必要性に応じて、適時新たな指標を設定することが望ましい。

業績評価指標の例
−基本指標− ●情報提供手段の代替案の検討等に利用するため、以下の指標を基本指標として設定する。
@パソコン所有率
Aインターネット利用率
CATVの自主放送よりHPが効率的・効果的といった場合も考えられる。
BCATV加入率
CBS/CS加入率
D広報誌発行部数
  可能な限り情報システムによる情報提供へと転換する。

(表)評価指標の例

4.評価結果の政策・施策への反映
●情報提供サービスの評価結果は、今後の情報提供の方法(回数・提供形態)の検討資料として活用する。

(1)情報提供の方法、内容の見直し
●例えば市況情報の場合、「市況情報入手率」が目標に達していない場合やコストがかかった場合、提供回数や時間帯、提供形態を見直し、効果的・効率的な情報提供のあり方を検討する。
●また、「市況情報入手率」が向上した場合でも、「主要農産物の市況」が向上していない場合、市況の分析方法に関する情報や出荷調整の方法に関する情報等、提供する情報の内容を見直す。
●例えば文字情報で新着図書情報を提供していた時には、「新着図書情報認知率」や「図書貸出数」が伸び悩んだという場合、図書館職員が簡単な本の内容紹介をする番組へと情報提供形態を変えると、認知率や貸出数が向上したというような効果も期待できる。

(2)政策・施策への反映
●行政分野、教育・文化分野等分野ごとに情報提供サービスの効果を検証し、分野ごとの情報提供サービスの比重、予算編成を見直す。
●また、適時代替する情報システムとのコスト比較、効果比較を行い、もっとも効果的・効率的に情報提供サービスが行える情報システムを検討する。

(3)農林水産省における予算編成への反映
●地域ごとの情報提供サービスの評価を収集し、予算編成に反映させる。
●例えば、地域では教育・文化や保健・福祉分野など農村生活分野において、情報提供サービスの効果は大きいが、農業分野では外部要因が大きすぎるため、情報提供サービスの効果が小さいと判断された場合、経営構造対策事業で行う情報連絡施設整備を廃止し、農村総合整備事業を充実させるなど...

5.評価体制
(1)事前評価
●公共事業としての妥当性、効率性の評価は、企画立案部門が行う。

(2)事後評価
●業績指標評価は、情報内容ごとに情報を提供するセクションが主体となって、情報システム運用者の協力を得ながら、評価指標と目標の設定及びモニタリングを行う。
●企画立案の段階で、業績評価シートを作成する。

評価シートの例