大人用音楽
YUMI'S SONG REVIEW

スガシカオ 「黄金の月」

2nd マキシシングル 1997.05.28 RELEASE

 

2ndシングルにしてこの名曲。そしてこのA面扱いとなる曲が2曲目に収録されているという異質な3曲入りマキシである。
だけど、変質的な「SWEET BABY」と「これからむかえにいくよ」というFUNK TUNEに挟まれた、この「黄金の月」というSOUL TUNEは、より一層輝こうとしているのである!

現在までにリリースされている14枚のシングルのうちでも最高にスガらしい1枚のような気がする。3曲でミニアルバムを聴き終えたかのような充実感だ。濃いいのです、闇が…。

どうしても歌詞ばかりに注目される曲だ。だからあえて、先にサウンドとメロディーの話をしたい。

どうしてこの曲に私が取り付かれてしまったか、魅了されてしまったか。それは初耳した時にまでさかのぼる。一瞬で決まってしまったんだ。私の耳のその未来を決定づけられた瞬間だったかもしれない。イントロと最初のワンフレーズがすべてだった。

へっぽこぼこなリズムボックスの音。そして腰の効いたベースの3音!(これにヤラレタ!)、そしてワウギター!!完璧なイントロだった。イントロでやられてしまって大好きになった曲というのが私にはわりに多いんだけど、このヤラレ方は間違いなくNo.1だ。それで、歌いだしは、<僕の情熱は今や>…。アコギのバッキング…。今でもその時の鳥肌を忘れない!

深夜のFM放送だ。ボリュームも小さくBGM的にただなんとなく聴いていただけで、ベッドの中で眠りにつくまでの束の間の時間だったんだ。特に耳を傾けていたわけではないのに…。

実はこの時、耳にしっかり入ってきた言葉は、<僕の情熱は今や>だけだったように思える。ヴォリュームを上げるのも忘れ、必死にバックの音を追いかけて聴いた記憶がある。日本語の歌を好む私だ。なのに…恐らくこういったことは邦楽では初体験であっただろう。そうそう、洋楽でもこのような音には出会ったことがなかったはずだ。こんな衝撃はかつてなかったんだよな。

自分の中に録音されてしまったこの音と断片的ないくつかの言葉。情熱、涙、大事な言葉、真夏の午後、永遠を誓うキス、光を集めて、純粋、黄金の月などなくても…。
FM NORTH WAVEでは、ヘヴィープレイ。3度目か4度目に耳にした時だったと思う、はっきり歌が伝わってきたのは…。そして翌日、CDを買った。

聴けば聴くほどに突き刺さる歌だった。なのに身体には心地いいこのサウンド…。沈む心と浮き立つ身体。たぶんこんな感じも初めてだったんだろう、どう処理していいのかわからない。

月のない無意味な生活を送っていたように思う。その現実を突きつけられた私は、太陽さえも失っていく。真っ暗闇。それまで大好きだったシアターブルックの「ありったけの愛」もウソに思えた。だけど、それがウソだったんだ。「黄金の月」の本当の意味は…それがわかって、ポジティヴソングに転換されていくのは、それから約1年後のこととなる…。


確か今年に入ってからのことだったと思うが…。
現在FM J-WAVEでパーソナリティーを務めている番組「OH !MY RADIO」内に、人気コーナー「無料相談室 教えてシカオちゃん」というのがある。いわゆるお悩み相談コーナー。だけど、もちろんスガシカオ、一筋縄ではいかない。寄せられる悩みは恋愛や進路、音楽についてなど、ごくごく一般的なものが多い。だけど答えは一般的ではないのだ、視点が違う。優等生的模範解答とは違うアドバイス。だけどそれが、現実を踏まえた上でのうまい処世術なんだ。不器用だからこそ、そうして大人になってしまった男であるからこその応えだ。真実が隠されてる。PTAに叱られそうな答えも多いが、実に理に叶ってる回答。うんうんそうだよね、って聞けることがほとんどだし、その着眼点にはっとさせられることも多い、非常に勉強になるコーナー。なかなかそうもうまくは行かないのが現実なんだけどもね。

数ヶ月前のそのコーナーへのお便りに、
「黄金の月」の
<どんな人よりもうまく自分のことを偽れる力を持ってしまった>
その意味がわからないので教えてくれという15歳の男子からの質問があった。

シカオさんの答えは…、「説明するのは難しいなぁ、君も28歳くらいになったら絶対わかるよ」。

そう、誰でもそういう感覚って持ってると思うけど、中学生ではわからないのか。自分は世界一のうそつきだ、なんて思ってしまう時があるんだよね…。そして二度と本当の自分なんて取り戻すことができないだろうと…。

今でこそ、その番組「マイラジ」でも中学生リスナーが多いことに非常に驚かされるが、シカオさんは子供向けの歌なんか作っちゃいない。20代後半以上向けだと語っていた。「夜空ノムコウ」「黄金の月」「ぼくたちの日々」というのは3部作といわれていて、詞のテーマはすべて同じ。ただ年齢設定がちょっとづつ違うのだ。それぞれ、26、28、30歳って感じかな。「夜空ノムコウ」を歌ったSMAPはちょうどドンピシャだったんだよね。私もそうだった。

「黄金の月」を聴いてハマった時の私はまだ25歳。ちょっと早かったわけだけども、本当にそんな気分だったんだ…。当時のことをあまりくっきりと思い出したくはないので、語りはしない。今もそんなに変わりはないけど、うまく消化できたように思う。昨年11月28日のアコースティックライヴでこの曲が歌われる前に、「生涯歌い続けていくだろう」とシカオさんは仰っていましたが、私にとっても生涯聴き続けていくことになるだろう。
参照 : SET LIST http://www.geocities.co.jp/MusicHall/9151/setlist_thankyou.html


ある時に思ったんだ。本当に情熱や純粋というものを無くしてしまったのなら、その人の中からそんな言葉は出てこないだろう。そして聴いた者もそんな言葉に反応しないだろう、と。自分の辞書からそんな言葉は消えてしまっているはずだから…。

聴くたびに立ち返ることができる。LIVEでは弾き語りとバンドヴァージョンとあり、今ではどちらもCDやDVD化がされてますが、私が最も感じ入ることができるのはこのオリジナルヴァージョン。何を失い、何を偽ったとしても、そういったことがどんどん増え続けるのかもしれないけど、私はこの曲を聴いて涙することだけは失いたくない。何も感じないような人間には絶対なりたくない。

目を瞑ればいつだって黄金の月が輝いている。その光よ、永遠に…。

(いちスガマニアより愛をこめて)

 

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