#2748/4530 連載 ★タイトル (CKG36422) 93/ 1/26 19:37 (185) ●連載パソ通小説『権力の陰謀』 27.真相 ★内容  兼高技研鰍フ仕事が終わった後、信一は引き続きその会社と取り引きすることも考え たが、諸事情によりそうはならなかった。 それで、今度は自分で会社を経営する道も 考え、実際にそのために準備もし始めた。 しかし、採算を検討した結果、断念せざる を得なくなった。 そして、再び社員または契約社員の道を目指した。 ほとんど門前 払いであったが、面接まで行く場合もあった。 ところが面接先へ出向く時にも、車中 や街頭等での工作者の暗躍は相変わらず執拗に続いた。 その日に一言でもそれと分か ることを言われれば、信一は、20年前から続いているそれを思い出さざるを得なかっ た。 だから、張り切って出かけても、暗い気持ちに変わることが度々あった。 それ に、何かその面接の相手の態度に不自然さを感じた。 何かを言い含められているかも 知れないと思った。 パトロールカーの出現や工作者の暗躍が続く信一には、そう思う ことは何の不自然さもなかったのだ。  一家の生計は、妻の僅かなパート収入と残り少なくなった貯金の取崩しでどうにか維 持していた。 信一は、たとえ今後運良く仕事にありついたとしても、また、同じ目に 会うだろうと思った。 何せ、何の理由もないのにやられていることなのだから、何も ないのに、これでもう終わるということも考えられないからだ。 信一にとり思えば長 く苦しい20年間だった。 当然のことながら、自分に起こっているこれが何なのかは 何度も考えてきた。 だが、システムエンジニアとして、息付く暇もなく忙しく過ごし てきたから、まとめて深く考える余裕はなく、従って、その答えも分からなかった。  しかし、信一はとうとう完全失業状態になり、いよいよ追い詰められた。 だから、 20年前から始まったその忌まわしい過去を、当時、苦悩しながら記した日記帳を紐解 き振り返ったのだった。  まず、一つ一つの事実や状況を整理した。   1.自分に対する苛めは帝都に入ると同時に始まった。 また、入る前から策謀さ     れていた可能性がある。   2.帝都には差別されている村(係)があり、自分は最初そこに配属された。 差     別とは給与と予算と人が不当に少ないから超多忙なことと、苛めの対象になっ     ていたこと。   3.管理職試験や昇任試験による実力主義は、こういう差別により不公平・不公正     となり、名ばかりとなっていた。   4.職場では自分を失脚させるためとしか考えられない、罠も含む圧力が掛けられ     た。   5.罠の後、苛めは一層酷くなった。   6.苛めは大気汚染課異動後、次第に組織化し、エスカレートして行った。   7.苛めは、訓練と思わせたり苛めと思わせたりや、色々な理由を交互に浴びせる     という揺さぶり戦法で行われ、絶対に理由を知られないように行われた。 こ     のことは、帝都退職後も同じだった。   8.自分は心身の限界まで追い詰めれ衰弱し、自分を守るため退職した。   9.苛めは退職後も続き、表と裏からの工作により、次々に会社を追われた。 会     社への通勤途上の帝都職員・帝都警察等による嫌がらせがあった。 また、ど     の会社も自分に不当で過重な負担を負わせることにより、自分を失脚させた。      また、顧客は仕様をなかなか提示しなかったり、後で仕様変更を連発すると     いう手口で、自分を痛め付けた。  10.就職先の会社へは、自分が帝都で何か非常に悪いことをしたように、また、辞     めさせる理由があったように言い触らされていた。  11.潟Iープン・アーキテクチュアでSEとして最後までやれなかったことも苛め     の理由に使われたこともあった。  12.昭和58年6月以後は帝都警察も加わり、次第に県警・帝都消防署・県消防署     も結託して行った。 また、遠い旅先にもパトロールカーがそれと分かるよう     出現した。 つまり、広域の官庁に指令が回っていた。  13.帝都警察等による嫌がらせは休日や失業しているときも行われ、現在も続いて     いる  14.結果からして、この家はかなり前から盗聴・監視されていた。(帝都に入って     から、または昭和54年11月頃から)  15.帝都警察の公聴課に電話し、このことを相談しようとしたが、「警察がそんな     暇あるわけない」と言われ、それ以上の話は聴いて貰えなかった。  16.帝都弁護士会へ相談に行ったが、そんなことは有り得ないと、まともに聴いて     貰えなかった。  17.現在、自分は転職歴が増えることで社会的信用をなくし、また、年齢や不景気     も手伝い、再就職できなくなった。  そして、信一は更に考えた。 「彼らは私が過激派か何か危険な人物でないことを知 っている。 精神異常者でないことも知っている。 また、犯罪歴がないことも知って いる。 大人しい性格の人物であることも知っている。 それにも係わらず、何故、こ の自分がこんな目にあうのだろう。 誰が見ても何の理由もないのに。 ということは 、自分の身に起こっているこれはただ事ではない。 普通でない常識的でない何かだと いうことが分かる。 しかも、これは正義のなせる業でもないということが分かる。 では、一体これは何だ。」と。  そして、そこに当時気づかなかった恐るべき権力の陰謀が隠されていることを発見し たのだった。     良い人間は、帝都の中の差別村に入れられて、一生出世できないようにされる    か、または、私のように差別村にはまらないと、集団暴行で追い出されてしまう    。 だから、帝都には自浄能力がないのだ。 帝都にふさわしい人間とは、それ    が仮に不正なことであっても、黙って上司に服従する人間なのだ。 だから、良    心とか、真面目とか、社会に対する奉仕心とかとは無縁なのである。 かえって    邪魔なのである。 そして私を追い出すときに、ついでに皆を参加させ、その訓    練をしたのだ。 管理職はその指導的能力を問われ、その部下は絶対服従を強い    られる。 職員は一度でもそれらしい行動を差別者に対して取れればよしとされ    るのだ。 それができないお人好しは差別者と同じ道をたどるのだ。 帝都はこ    のように、ファシズムさながらのやり方で、悪徳官僚の権力の独占を維持、拡張    するのだ。     そして、私が帝都を退職した後のそれは、差別の帝都内から社会への拡張であ    った。 だが、本質は社会の差別を帝都内にも適用していたということだ。 そ    れはまた、帝都の特別の内情の発覚を防ぐという意味も含んでいた。 「攻撃は    最大の防御なり」を実行していたのだ。 かくして帝都は、退職後も私に対して    圧力・工作をし続けたのだ。 私は退職後はその真相を知ることも、名誉を取り    戻すことも、まったく諦めていた。 だが、帝都は万が一の危険性を恐れたのだ    。 だから、完璧に私の社会的地位や信用を奪うまで、私が完全に無力化するま    で続けたのだ。 私が段々我慢強くなるに従い、次第にその手口をエスカレート    させ、最後にはまったく職に就けないようになるまで、私が社会的に死ぬまで。     私を社会の差別者に仕立て揚げようとしたのだ。 これが私の20年間のとて    つもない不幸な運命の真相である。  また、このことから関係官庁では、次のような思想のもと、工作がなされていたこと が推測できた。    1.目的       各行政機関の職員が一致団結し、差別者と呼ぶ標的に対して監視・尾行・      工作・迫害等の妨害を行なうことを通して、組織の命令指揮系統を機能させ      、組織力の維持・強化のための訓練を行なう。 また、職員に対して絶対服      従の精神を身をもって体験させることを目的とする。 犯罪を侵していない      人間に対しての工作ということで、究極の命令ということになり、これに従      うことができれば、他のどんな命令にも従わすことができるということが確      かめられる。 このとき、ある範囲の民間人も巻き込んで同様のことを行な      わせ、権力の民間への浸透も謀る。 これに従わないものは、差別者と同様      って、権力の独占の維持・拡張を行なう。    2.目標       権力が法的責任をとられることなく、差別者という標的を社会的に完全に      抹殺すること。    3.参加官庁       差別者の居住地域及び行動範囲地域の全官庁職員。 差別者の条件が良け      れば、出張による訓練も行なう。    4.差別者の選定       大人しく、気弱で、潔癖で、孤立する、苛めやすい人間を対象とする。      ただし、頭の悪い鈍い人間は、面白みがなく訓練教材には適さないので除外      すること。    5.用済み差別者の扱い       差別者が社会的に完全に死に、用済みになった場合には最低限の生活保護      を与える。    6.後継差別者の選定       差別者は訓練教材として絶えず必要であるから、直ちに後継者を探すこと      。 差別者の子息は、その反撃を封じ込める意味でも有力な後継であるから      大事に育て、条件に適合すれば選定対象とする。  ここで、もし訓練中にそれが発覚または訴訟対象になり、権力の維持に危険が出てき た場合には、次の三段階の無力化のための手段を取るであろうことが推測できた。    差別者の反撃を無力化する手段    強力である場合には、第二または第三の手段を取る。 これには危険が伴うが、    同時により高度な訓練対象にもなるので、留意して対応すること。     ・第一段階  証拠がないのだから、官庁総ぐるみで口裏を合わせ、知らぬ存            ぜぬで押し通す。 または、差別者を気違い扱いして不問に伏            す。     ・第二段階  架空の罪をでっち揚げるか、または、裏工作による圧力で罪を            犯させ、刑務所にぶち込んで口を封じる。     ・第三段階  稀に第二段階が上手く行かない場合には、事故に見せ掛け殺す            か、または、殺し屋等に頼んで暗殺する。 または、坂本弁護            士一家のように、この世から跡形もなく消し去るという非常手            段を取る。  かくして、信一は20年間に渡り権力拡張の手段として使われ落ちぶれた。 そして 、日本の民主主義はまた腐敗の度を深めたのだ。                                    ヨウジ                       初版 92-11-18                       改訂1 93-01-26