#2632/4530 連載 ★タイトル (CKG36422) 93/ 1/ 1 16:54 ( 31) ●連載パソ通小説『権力の陰謀』 18.発見 ★内容  昭和53年4月21日より、信一は旭OA販売鰍ノ出勤した。 本当に長かった失業 の後のことだったから、喜びもひとしおだった。 その会社は中小企業であったから、 待遇もよくなかったし、残業をしても手当てが付かなかった。 おまけに人手がないか ら何でもやらされた。 入社した初めての夏には客先で一週間徹夜勤務をした。 客先 の従業員が夕方帰る頃出勤し、翌朝、従業員が出勤してくる頃我々が帰るのだ。 家に いられる時間が8時間位しかなく、その間に食事をしたり、入浴をしたり、睡眠を取っ たりしなければならなかったのだ。 第一、夏の昼間は暑くて眠れない。 それとて、 夕食をご馳走になる以外手当ては一銭も出なかった。 ただ、中小企業には独特の暖か さがあった。 先輩が皆いい人で、よく面倒を見てくれた。 忙しくて余裕がないのだ が、信一に優しくしてくれた。 そういう人間的な結び付きがあったから、そういうこ とにも耐えられたのだろう。  信一は、最初の1年位は1プログラマーとして、幾つもの仕事を掛け持ちし、ただ、 ただ、忙しく苦しい日々が続いた。 信一は大手企業のある大きな仕事にも一員として 携わっていた。 しかし、その仕事のシステムエンジニアであるリーダーや、もう一人 の一員が中途で退職してしまい、信一ただ一人が取り残されてしまった。 一員として 部分をやっていた信一は、否応なしにその仕事の責任者にならざるを得なくなった。 信一が直接客先と対応しながら、社内では開発を続けた。 また、一方では小さいが、 1つのシステムの設計を任された。 この2つのことがきっかけとなり、信一はただの プログラマーからシステムエンジニアへと大きく飛躍を遂げた。 信一は以後、どんな に大きく難解な仕事でも一人で客先と対応し、システム設計、プログラマーの面倒見、 客先の面倒見とやれるようになったのだった。 そして、信一は発見したのだった。 この世の中にはこういう仕事があるのだということと、自分がその仕事に向いているの だということと、自分の中に潜在していた才能を。  かくして信一は、一度は向いていないと苦悩の末辞した仕事だったが、こうして仕方 なくではあったが再び同じ仕事に挑み、苦しみの中から貴重な発見をすることができた のだった。 それは発見であると同時に人間性の飛躍であった。 今まで大きな責任を 背負ったこともない、だから自信も余りなかった青年は、幾多の困難を自力で乗りこえ ることにより、いざという時力の出せる、頑張りの利く人間へと成長したのだった。  加藤信一30才、少し遅いがこの小さな会社での経験は非常に意義深いものだったの だ。