#2678/4530 連載 ★タイトル (CKG36422) 93/ 1/12 14:47 ( 63) ●連載パソ通小説『権力の陰謀』 6.罠 ★内容  帝都の中には差別村というのがあるのではないかと思った。 係の島田の話から、 地盤沈下防止係に対しては、次のような不公正があると言うことであった。  1.事務量が多いにも係わらず、人も予算も不当に少ない。  2.地下水揚水量報告書の集計を例年ならアルバイトを雇い行なっていたのが、今年    は信一1人でやらされたこと。(信一はこのため酷い肩凝りに何ケ月も苦しむこ    とになる)  3.給与の内、特別手当が支給されず、旅費が他の係より少ない。  4.和田係長が冷たく情けないのは、長年(普通、人事異動は3年毎にあるのに、彼    は入都以来この係にいた)のそのしわ寄せによって、そういう人間になってしま    ったのではないか。  このことを知った信一は、自分が差別される理由はこれなのではないかと思った。 そして、尚一層心曇らせたのだった。  信一に対する苛めはこれだけではなく、もっと、手の込んだ苛めがあった。  1.課外からもわざわざ来ては「技術屋、技術屋」と馬鹿にした。                    〜けなして意欲を殺ぐ戦術〜  2.新任研修がない。後で分かるのだが、どういうわけか1年後になってしまった。    そういう扱いを受けていた信一には、これも差別と感じた。  3.入都時、局の人事担当の長谷部から「あなたは経験があるので辞令はそうなって    いますが、後で遡って1号奉上げますから。」と言われ、年齢のハンディーを負    っていた信一は気をよくしていた。 ところが20日経ってもそんな話がないの    で、その人事担当者のところへ聞きに行くと「いや、嘘言って済みません。 間    違いでした。」と言われた。 ショックを受けてその場を立ち去ろうとする信一    に更に陰で「何んにも言えないな」と低く暗い声で呟いた。 信一はこれは明ら    かに自分を陥れるための計画的な苛めだと思った。                    〜期待を持たせて落胆させ意欲を殺ぐ戦術〜  4.この頃、信一がいつものように地下水揚水量報告書の集計を必死に行なっていた    時に、水使用合理化に取り組んでいた上司の島田が、いきなり部屋に入って来て    、机の上に太いパイプ状の物を置いた。 そして「これやりますか」と信一に問    い掛けた。 信一は、それが何のことか一瞬戸惑ったが、彼のやっていた仕事の    ことを思い出し、「これは流量計かな」と考え、しばらくして「そういう専門的    な仕事は合っていないから」と答えた。 水使用合理化は彼の大学時代からの専    門で、それでこの係にいたのだった。 信一はこの仕事についてはそれまで何も    具体的な説明は受けていなかった。 ただ時々、民間の調査マンらしい人が来て    、彼と親しそうに話をしていたことは知っていた。 しかし、このことがあった    以後、いよいよ、苛めが激化した。 他の課の者もわざわざ来て「服務規定違反    だからね」と苛めるようになった。 まるで絶好の口実ができたとばかりに。    このとき信一には、これが仕組まれた罠であったなどということは知る由もなか    った。 何故かというと、信一はまだ役所の仕事について何も知らなかったし、    また、そのように耐えがたい程のストレスの中で、精神的にまったく余裕のない    日々を送っていたからである。 役所は主に仕事の企画を行い、実務は民間に出    すのだ。 調査対象企業が何千か何万かは不明だが、そのようなおびただしい数    の企業の何百ケ所あるか分からない測定点について、1人や2人ではとても測定    しきれるものではないのだ。 だから、この仕事は架空であったのだ。 それに    仮にこの仕事が本当としても、突然の「これやりますか」という話しかけは命令    ではなく、信一の意向を聞いただけの言葉であった。 命令ならば少なくとも事    前にその詳細計画や測定法等のノウハウを伝授されていて、スケジュールに基づ    き、「今日、ここへ行ってください」と言われるはずだ。 だから、これは命令    ではなく、従って上司の命令に背いたことにはならないのだ。                 〜服務規定違反と思わせての組織的苛めへの口実〜  信一は以後ずうっと、この架空の弱みも利用され、苛め続けられるのだが・・・。                                    ヨウジ                       改訂1 93-01-12 2行目