#2503/4530 連載 ★タイトル (CKG36422) 92/12/11 15:45 ( 85) ●連載パソ通小説『権力の陰謀』 5.始動 ★内容  信一は公害対策局施行部その他公害課に配属された。 課が1つの個室になっていた 。 4つある係の内の地盤沈下防止係が信一の係であった。 係の人数は信一を含め5 人であった。 信一は役所の仕事のことなど何も知らなかったから、雑用に追われた。    近頃、公害々々と騒がれているが、本当は精神の公害なのではないだろうか。   当たり前のことが当たり前でなくなり、正しいことが通用せず、良い行いが非難さ   れる等、まったく、逆さまになってしまったようだ。 神どころか道徳までが消え   ようとしている。 「人に迷惑を掛けないこと。」というのは小学1年生だけに教   える言葉で、逆に人を虐めることで、自らを慰めようとしている。 だから、我々   の目指している明るい社会を、実は我々自身が破壊しているのだ。 それは自然界   の弱肉強食的な競争状態であり、我々を人間たらしめている理性は皆目見当たらな   い。    いったい我々は日々を何のために生きているのか。 それを考えることすら忘れ   さられている。 そして、その理性のない行動は、尚も我々自身を駄目にしてしま   っている。 社会が巨大なだけに尚更なのだ。 我々の目標である我々の幸福達成   、それは正に精神公害のない明るい社会を作ることなのではないのだろうか。 い   や、それ以外にないのだ。 人間は人間らしくある時に幸福であるのだから。            (昭和48年6月13日水曜)    試験間近な週末である。 色々ストレスが加わって、この1週間余り勉強しなか   った。    そのストレスとはやっぱり人間関係である。 東光電気の時程ではないにしても   、やっぱり、人間はどこへ行っても同じだった。 人はやはり嫉妬深く、陰口を言   ったり、噂したり、嫌味っぽい咳払いをしたり、物音を立てたりする。 「幸福論   」によると、これは、自分の不幸を他人に嫌がらせをすることにより、その場しの   ぎの満足のために行なっているのだそうだ。 私の係の和田係長はそれだけでやっ   ているようには見えない。 何かやたらと嫌味なのだ。 もう既にそれを習慣にし   ているようだ。 感情を余り表面に出さず、陰にこもっていて、非常に冷たい感じ   である。 私の帰りのあいさつに、1度として答えたことがない。 青春が受験勉   強で満たされたことは、彼をあそこまで冷たくしてしまうのだろうか。 現代社会   はああまで人間を人間らしからぬ状態にしてしまうのだろうか。    そんな中で私は元気に明るく親しく振る舞っているわけであるが、起動修正も余   儀なくされようとしている。 しかし、それは嫌味になろうとしているわけではな   い。 反抗的に振る舞おうとしているのでもない。 より自分が本道を進むために   やろうと思う。 すなわち「目には目を」を実行しようと思う。 ・・・             (昭和48年6月23日土曜)  そして、信一は虐められないようにするにはどうしたらよいか、自分の振る舞い方を 具体的に考えたのだが、性格だからほとんど実行できなかった。    真夏の明るく活動的な晴々しい陽気であった。 この所、梅雨は中休みで連日蒸   し暑い日が続いている。 しかし、その陽気と打って変わって、私の毎日は何と辛   苦で充満していることだろう。 事実上、東光電気当時以上の酷い環境で、自分で   も信じられない程である。 これは入った当時からで、まず、江口課長である。   まったく悪いことを侵していない私を、しかも、非常に一生懸命与えられた仕事を   なしている私を、陰で悪く言って、陥れようとしているのだ。 まったく、理由が   分からない。 この間の送迎会のときもそうであった。 会が終わった後、まるで   私に当て付けるように、他の新入者だけを食事に誘った。 私以外はえこひいきさ   れ、私だけが無視された。 まったく、理由が分からない。 彼は根っからの悪人   なのだろうか。 いや、あれ程までの悪人の存在など到底信じられない。    そして、和田係長。 彼は絶えず咳払い(特に汚らしく、大きな)をして、嫌が   らせをするんだ。 そして、陰にこもって何やらたくらんでいるように感じられる   。 それは顔に象徴されている。 帰りに挨拶をしても、一度として答えたことが   なかった。 (それはその日の私の行いに関係なく) だから、この頃は余り挨拶   しないようにしている。 今日は朝も挨拶しなかった。 そして、彼は私を雑用に   こき使うのである。 酷く冷たい男である。 その顔にはまったく温かみがない。    まったく、人間という感じがない。 あることが信じられない程である。 彼に   はまったく同情心がなく、一言として相談できる相手でもない。 むしろ、逆に私   を陥れようと、虐め、脅かし、こき使ってきた。    そして、すぐ上の上司の高田。 この男も同情心がないことでは同様で、やはり   、昇任試験の邪魔をするほうであった。 そして、彼はスパイ屋である。 昼休み   、喫茶店で私が言ったことなどを、故意に曲げて報告しているようなのである。   そして、それは江口課長へと伝えられた。 彼も正しく私を陥れようとしている内   の1人で、和田係長、江口課長の手先と言っていい。 そして、課の他の連中も同   様に血に飢えた狼である。 何か私の隙を見つけては、嘲り楽しもうという連中な   のである。 今まで余りにも辛いことに耐えてきた私なので、何とか持ちこたえて   いるが、しかし、この3日位は、帰りの電車で涙ぐんでいる程であった。    私は人には優しく親切に努めているのであるが、他人からは冷たく意地悪くされ   る。 この2、3日は特に私が変わりつつある日である。             (昭和48年7月5日木曜)    この頃の私は私を見失っていた。 流されていた。 気分にも流されていた。   私の意志に従って行動していなかった。 そして、今、私が不幸な理由は、何か心   から夢中になれるものがなかったからだ。 そして、暑さで身体の調子が悪かった   からだ。    そこで、私は私に希望を与えてくれる、私に安らぎを与えてくれる読書をしよう   と思う。 これは、今日電車の中で見つけた解決法である。 流されているときは   、こんな簡単なことを忘れてしまうものであることを知った。 そう、読書には全   てがある。 人間がいる、男がいる、女がいる、自然があり、喜びがあり、悲しみ   があり、美があり、恋があり、哲学があり、そして何かが・・・。             (昭和48年7月19日木曜)  信一はいつものように枕元の電気スタンドを消し、「目標を持って明日を生きよう」 と心に強く思ったのだった。