#2500/4530 連載 ★タイトル (CKG36422) 92/12/11 15:42 ( 56) ●連載パソ通小説『権力の陰謀』 2.時間外勤務 ★内容  信一は余り時間外に働く方ではなかった。 信一にとって仕事は強い緊張を伴い、我 慢の連続だった。 だから、1日終わると早くそれから開放されたいと思っていた。 それにこの仕事はサイクルが長く、ちょうどマラソンのようにペース配分を考えないと 完走できなくなってしまう。 仕事にとって完走できないとはリタイヤであり、要する に最後まで責任が果たせないことを意味する。 そして、自分にとっては病気または死 を意味する。 人はのんびり気楽にやればいいとも言うが、気短な信一にはそれができ ない。 頻繁に休みを取るという手もあるが、実際やってみると分かるが、込み入った 作業をしながら、いつもいつも自分自身をそのようにコントロールすることはできない 。 それに込み入った作業には長時間に渡っての精神の集中が必要なものだ。 もし、 仮に休憩を取っても、いったい何処に行って、どうやって心をリラックスさせるのか。 信一には何処にも逃げ場がない。 職場の仲間と雑談すれば確かにニラックスすること ができるが、本当にそうしようとすると話が多くなって、上司には不真面目、さぼって いると思われて具合が悪い。 結局、信一が仕事の責任と自分自身の健康を両立させる には、信一が今までやってきたやり方、つまり、長時間労働を避け、時間内にベストを 尽くすということになる。 このことは、信一の中では何一つ矛盾がなく、本当に良い ことだと思った。 それに信一には労働時間が短くても、人より早くやれる自信があっ たので尚更だった。  だが、あの日部長はこんなことも信一に話していた。  「あなたがそういう理由で辞めて他でやって行くのなら、自分を変えなければならな  いよ」  「残業があるというのは日本企業の現実でやもうえないよ」  「もう、3度目ともなると、会社を探すのは難しいよ、普通の目で見てくれないよ」  「(意地悪に対して)色々な人間がいるものだから、しょうがない」 部長の言葉は理解はできたが、信一には納得できなかった。  「退社手続きには2週間掛かるから、その間何をしていてもいいから、まあ、将来の  ことでも考えながらいて下さい」  「2、3日したら、もう1度返事を下さい」  その後、信一の心は日々揺れ動き、悩み苦しんだ。 一晩眠ると、また考え気持ちが 変わり、自分でも信じられない程だった。    おお、私に心配してくれた人々に感謝しよう。 まったく有り難いことだ。 私   の意地っ張りも、あなたがたの働き掛けに屈服しました。 私は新しい道を見い出   しました。 私が今ままで守ってきた信念を曲げずに、しかも、現実を生きて行く   という道を。 樋口さん有難う。 貴女の優しい慰めがなかったら、私はまだ暗い   道をさまよっていたでしょう。 そして会社の人たち、友達、そしてお母さん有難   う。 ご心配掛けました。 もう、私は大丈夫です。 私は回り道をしましたが、   本当の道を見つけました。 真実の道を見つけました。 あなたがたの声々に私は   導かれました。 優しいあなたがたの心で私は元気になり、立ち上がりました。   私は雄々しく堂々と歩んで行きたいと思います。 皆さん有難うございました。 (午後10時40分)  そしてその日から3日後、出社するとすぐに部長に話した。  「あのー、もう一度考えました。 やっぱりいます」  「どうもご迷惑お掛けしました」 すると部長は笑顔を浮かべたようだった。  信一はそれからは余計なことは言わずに、あっさり振る舞った。 前日の気持ちの大 変化による興奮でよく眠れなかったが、気分は良かった。 それから余りいい顔をして いない課長にも詫びると、言われた仕事にすぐに取り掛かった。 何の拘りもなく仕事 をすぐ覚えテキパキこなし、また、息抜きすることも忘れなかった。 相棒と親しく雑 談もし、明るく楽しく仕事をした。 まるで無邪気な子供の様だった。 意地も見栄も 拘りもなく、ただ、素直に明るく振る舞った。 時に雑談が多過ぎたが、明るさを求め る信一の心だった。 そして、仕事も進んだ。  信一はなお一層人間関係を良くしようと思った。 そして、人に優しく明るく振る舞 うように心掛けたいと思ったのだった。