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阿刀田高 「楽しい古事記」
古事記が面白い
2001/1/22
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今日のニュースで歌会始の模様を報道していました。いやぁずいぶんとながながしく語尾を引き伸ばして読み上げるもんですね。しかも朗々と。昔の高貴なかたがたはあの調子で、相聞の歌を取り交わしていたのかしら。そんなことを考えながら、阿刀田高の「楽しい古事記」を読み終えました。いつもながら、神話世界のミステリアスな魅力を腹を抱えながら楽しむことができました。著者の独断で推理する解釈は、しかしながらよく勉強していると感心しながら、読者の想像を一層かきたてます。恋をして歌を歌って、エッチして、子供を作って、また恋をしてすぐエッチしてと最初から最後までその繰り返し。嫉妬深くて、執念深くて、陰謀、暗殺、クーデター。日本の神様ってものすごく生臭いんです。もっと読まれてもおかしくないんだが、どっか遠慮する方面があるのでしょうか。
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荒山徹 『魔岩伝説』
久々の大型伝奇時代小説を堪能する。
2003/01/11 |
まず、朝鮮通信使とよばれる李朝朝鮮とわが国の歴史的な外交の制度について全く知らなかったものとしては、いたく好奇心を刺激させられました。
「李氏朝鮮の国王が日本国王(日本の外交権者)に国書を手交するために派遣した使節。1404年(応永11)足利義満が〈日本国王〉として朝鮮と対等の外交(交隣)関係を開いてから,明治維新にいたるまで,両国は基本的にはその関係を維持した。江戸幕府が正式な外交関係を結んだ独立国は朝鮮のみであり,通信使の来日は,徳川将軍の国際的地位を検証する場として,大きな政治的意義をもった。また,日本の儒者などの知識人は使節の一行との交歓によって新知識を得,人民は珍しい異国の文物に接するなど文化的影響も大きかった。総勢は平均400名ほどで,国書と贈物を携え,釜山と江戸の間を往復した。その送迎や接待は豪奢を極め,両国ともに財政的な負担は大きかった。」(世界大百科事典より抜粋)
莫大な財政負担にもかかわらず歴代の徳川将軍家がこの通信使外交を存続させているのはなぜか。実は、李氏朝鮮と徳川幕府の存亡にかかわる一大秘事「魔岩に仕掛けた家康三百年の深謀」が隠されていた。朝鮮通信使の史実を踏まえたこの奇想天外な着想には驚かされます。
神君家康公以来の機密を暴こうとするのが遠山景元、後の遠山の金さん。秘事守護の密命を代々受け継ぐ柳生、その尖兵である隻眼の剣士柳生卍兵衛。この二人の死闘。舞台は朝鮮に移り、朝鮮忍者、妖術師が絡み合い、山田風太郎も顔負けの奇怪な忍法合戦と、とにかく破天荒な激闘の連続は読者を飽きさせません。
伝奇小説とは中国古典文学に由来し、事実とされている歴史的人物の逸話、事件などを縦糸とし、横糸に不可思議な超自然現象、怪異を織り込むものである。虚と実と程よい調和が織りなす絢爛たる夢幻世界である。最近は史実を未消化のまま嘘ばかりでまかり通る「超伝奇」が多いのだが、韓国に留学経験ある著者の朝鮮歴史や文化に対する確かな認識はこの滅法面白い荒唐無稽活劇を大人の鑑賞にたえる本格的伝奇小説として完成させています。
さらに、国民的レベルでの緊張関係が隣国朝鮮との間でこれまでになく高まっている今日的視点からも、圧制に抵抗する人々に対しあたたかいまなざしを向ける著者の姿勢が滲みでた興味つきないテーマもみうけられました。
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荒山徹 『十兵衛両断』
「朝鮮は古より文を尊ぶ国柄。剣術の如き野蛮なるもの、絶えて我が国に存在せし例はござらぬ」
2003/08/08
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よって妖術ノッカラノウムにより柳生十兵衛の肉体と剣技を奪いその指南を仰ぎ朝鮮国内に正統の柳生新陰流を継承する強力な暗殺部隊を養成する。古来中国の属国であった朝鮮国は中国が明から清朝へ政権が交代することで存亡の帰趨が定まらない。豊臣秀吉の侵略もありこの国家的危機に政権内抗争が激化している。そして日本の武力、政治力を手玉にとって中国と対抗しようとする勢力の陰謀が徳川体制の裏舞台を一手に担う柳生一族をまきこみ、五つの暗闘物語を生んだ。
伝奇小説とは、事実とされている歴史的人物の逸話、事件などを縦糸とし、横糸に不可思議な超自然現象、怪異を織り込むもので、虚と実のほどよい調和が織りなす絢爛たる夢幻世界である。風太郎忍法の奇想天外と柴錬剣法の凄艶を五味康祐の硬質な漢文口調の文体で整える。そして著者の朝鮮歴史や文化に対する確かな認識と史実としての典拠文献の紹介がこの滅法面白い荒唐無稽活劇を大人の鑑賞にたえる本格的伝奇小説として完成させています。
同時にこれは第一級の剣豪小説としても楽しむことができます。
朝鮮側柳生十兵衛の野心と徳川柳生十兵衛の怨念が激突する一騎打ち、表題作『十兵衛両断』。
剣聖・神泉伊勢守の伝える剣禅一如の正剣対外道剣に堕した柳生新陰流、鬼籍にある剣聖の亡霊?と柳生石舟斎の対決が見せ場の『柳生外道剣』。
朝鮮妖術が生み出した複数の柳生但馬守宗矩と新陰流の極意に達した剣豪兼陰陽師柳生友景の妖気ただよう戦慄の対決『陰陽師・坂崎出羽守』。
陰惨な出生の怨念が剣を振わせる朝鮮側柳生純厳と実の父柳生石舟斎とが怨霊崇徳上皇の眼前で繰り広げる骨肉の死闘『太閤呪殺陣』。
そして朝鮮妖術の生んだ三人目の柳生十兵衛とその率いる新陰流精鋭剣士団を相手として虐殺された同士のための復讐の念に十兵衛の甥・柳生六丸が単身血路をひらく大殺陣『剣法正宗溯源』。
剣豪小説の定義には詳しくありませんが、それぞれの剣士が披瀝する剣法の故事来歴とその全人格が結晶した特異な剣技、そして竜虎相打つ決闘様式の趣向に決め手があるものでしょう。この娯楽性の急所にたいする筆者の独創性は実に極め付きであります。
今年は伝奇時代小説が光っていますね。同じ著者の『魔岩伝説』の朝鮮通信使秘話といい、宮本昌孝『ふたり道三』で描く斎藤道三の奇怪な生涯といい、傑作が次々と発表され、このジャンルの「本物」を楽しむことができるうれしい年となっています。
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