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梁石日 「死は炎のごとく」
韓国現代史を描く迫真のテロル
2001/3/3
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ヒトラー、スターリン、ド・ゴールなど要人暗殺を描いたサスペンスミステリーの傑作はいくつかありますが、そこには虚構の前提があるからこそ、手放しで楽しめる世界があります。時代も、場所も我々とは遠く離れていていわば絵空事の世界です。一方スパイ小説、国家的陰謀小説で日本を舞台にした傑作はあまりお目にかかりません。
そんなわけで梁石日「死は炎のごとく」の日本を舞台にした韓国の現大統領金大中の日本での拉致事件と大統領朴正熙暗殺未遂事件そのものを語る迫真性には身近に存在する「怖さ」を感じさせます。
南北統一の民族的悲願を達成するとの誰も否定できない理想とこれをいかに達成するかという政治的力学の懸隔。この同種の懸隔はかつて学生運動にいささかでも参加した年代は痛切に感じたところでもあり、現在の政治状況、あるいは組織内社会人としても経験している事象でしょう。そして過激な短絡がテロルへと発展する過程、主人公である在日朝鮮人の心境変化が克明に描かれて、鬼気迫るものがあります。さらに在日民族闘争組織の内部抗争、日本の過激派、日本の公安部、韓国KCIA、米国CIA、北朝鮮情報機関などの暗躍も絵空事とは思えないものがあります。
この作品を読まれる方は金大中拉致事件をもう一度振り返られると小説の「迫真性」を感得できます。長くなりますがおおよそのところは次のような事件でした。
事件は1973年8月、東京で反政府活動中に韓国の情報機関によってホテルからひそかに韓国に連れ戻されたものだが、当時の駐日韓国大使館一等書記官が現場に残された指紋から犯人の一人として確認された。
このため韓国の公的機関による日本に対する「主権侵害」や、金氏の「原状回復」などをめぐって日韓の外交問題に発展。結局は金鍾泌首相(当時)が謝罪特使として訪日するなど二度にわたる政治決着で外交的にケリをつけた。
これは韓国政府(朴正煕政権)に対し政治的に配慮したものだったため、日本の社会党や左翼・進歩派団体、韓国の野党などは真相究明を求めて日韓双方の政府を非難し続けた。とくに北朝鮮は事件を韓国非難に最大限利用し、韓国の国際的イメージを傷つけた。
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連城三紀彦「白光」
愛のない夫婦の家庭崩壊………と定番テーマ
2002/04/14
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連城三紀彦の作品をはじめて読んだ。実はもっと若い世代の方と勘違いしていました。
4歳の娘を嫁ぎ先の姉にあずけ、学生の彼とホテルで夢中になる好色な人妻(日活ロマンポルノ的なセンスである)。妹とは正反対でしっかりものとして成長し、物分りのよい母親になっている姉(人間関係が類型的である)はあずけられた子をボケの進みつつある舅にまかせて自分は同じ年頃の娘を歯医者に連れていくために外出する。そしてこの留守中に幼児は殺害される。不倫の母親、相手の学生、彼女の夫、彼女の姉夫婦家族(姉、その夫、被害者と同じ年頃の娘、舅)のそれぞれがこの事件について虚実、妄想をまじえて語り継いでいく。独白のなかに叙述のトリックがある。センスが古いなと思いながら読んで、あとで昭和23年生まれと私とほぼ同世代であると知りました。それならこのクラシックな女性観もわかるというものだ。不倫の最中に子供が誘拐される、同様の設定で描かれたサスペンスに桐野夏生、直木賞を受賞した「柔らかな頬」がある。男女差をまったく意識しないで描かれた不倫するヒロイン。この個性は我が世代にはあまりにも斬新にすぎてビックリさせられるが、さすが新世代の女性作家の手による魅力的個性の誕生であった。
ところで「白光」であるが登場人物が少なくて多くを語るとネタバラシになるから控えるが、、お互いに母となった姉妹間の隠された憎悪、痴呆症の舅の陰湿な心の闇、その他登場する家族のそれぞれの屈折した心理を微細に描いているが、全員が病的であり、その分、気色悪くなるストーリーである。犯人あての面白さもいまいちであった。
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