泡坂妻夫「大江戸奇術考」
2001/09/09
著者泡坂妻夫のよれば「文献に現れた日本最古のマジシャンの名は卑弥呼である」鬼道を事とし能く衆を惑わすと魏志倭人伝にある。英語のマジシャンの概念は奇術師より広く魔法、魔術、呪術の意味が含まれるのだそうだ。「鬼道」などと中国語の語感は「魔術師」「魔法使い」よりはるかにエライ人が操る、いかにも怪しさが漂う表現ですね。エロティックでもある。「陰陽道」などもまさしく宇宙の真理を自在に操る不逞のあやかしであって、安倍晴明
なんて男も妖艶な魅力で世の女性を幻惑させていたに違いない。
魔術、妖術、幻術、呪術の類から奇術に明確に分かれたのが江戸時代らしい。江戸時代の種明かしの本がいくつも紹介されている。これが面白い。確かに今も舞台で使われているネタの基本がここにあるんですね。ネタ本が大衆に愛読されるようになると魔法の呪縛から解かれて不可思議現象・超常現象が合理性、科学性をもって理解され、芸として楽しまれるようになる、著者はこういうことを言いたかったのだろう。
たとえば馬呑術、馬を飲み込むんですね。「御狂言楽屋本説」にこのトリックが紹介されている。江戸時代の人たちを魅了した欺しと洒落の世界。「万宝珍書」、エロ本ではない、料理マジックの紹介だそうでここに「たまごの白身と黄身を入れ替えるの伝」がある。ゆで卵の調理法、皮をむくと黄身があって真ん中に白身がでるという、この不思議な方法はその後もいくつかのバリエーションがあるが著者はそのいずれを試してもうまくいかないと嘆いておられる。
明治時代に西洋人に絶賛された紙で折った蝶を扇子で自在に舞わせる「胡蝶の舞」という日本独自の芸があって、これは私も寄席でお目にかかったことがある。これはトリックがあるのか、修練なのか。以前から私もやってみたい技ではあるがよく分からない。残念ながらこの本にもそのネタは記されていない。どなたかご存知ですか。

泡坂妻夫 「奇術探偵 曽我佳城全集」
ミステリーの楽しみ
2001/02/04
私は手品とかマジックを見るのが大好きなのです。超能力ショウや催眠術ショウもいいですね。もっともやって見せることもある。私がやってもばれないのですから、玄人のマジックは絶対に見破れません。タネを見破れなくて口惜しくて口惜しくて居ても立ってもいられない人はたくさんいます。見破れなくても楽しめるのがマジックのはずです。要は騙される楽しみです。人間どこか、騙されることに快感を覚えるそんなところを待っているものです
ミステリーの醍醐味もここにあるのじゃあないかな。こういうのを新本格派などと言うのかしら。それはそれでいいんです。
アガサの「アクロイド殺し」なんかも最大級の反則です。京極夏彦の「姑獲鳥の夏」の密室なんかも相当のペテンですよね。でもすんなり気分良く騙されました。いずれにしろ見破ろうなんて思わないで、でもチラチラと犯人は誰かなとか、どうやって殺したのかななどと考える程度で諦めているのです。
ところがいい作品の要素は決してこれだけではないことが重要です。やはり、本当はこっちのほうが肝心ですね。
最近の作者は「相当悪質」なペテン級の反則技をこれでもかこれでもかと展開します。
そういう作者はトリックそのものだけで(しかも思いつき程度の)長い長い文章を書くものだから、読み終わって作者の「どうだ参ったか」という声だけが聞こえてきて、作品のお粗末さに唖然とさせられます。
手品だってタネそのものは味気ないわけでショウの要素すなわち表現力がなければいけません。
99/07/18

泡坂妻夫(あわさかつまお)。この人は本名厚川昌男(あつかわまさお)でペンネームも洒落て名乗るぐらいだから騙しの名人。ご自身アマチュアマジシャンとしてその世界では勇名をはせる。「奇術探偵曽我佳城全集」なんて人を食った作品名だがこれは名作です。12の短編を収録してあり、実はまだ全部を読んではいないが、手品を愛好する人であれば、騙されたと思って読んで損はしないと思います。
2001/02/04

井上尚登 「T.R.Y」
「T・R・Yトライ」思いがけない面白さ
2002/12/24

横溝正史賞など読んだことはなかったのですが、これまでの受賞作っておそらく私の好みではなかったのでしょう、しかしこれは楽しく読むことが出来ました。
井上尚登、’59年生まれというから40才ですね、なかなかの勉強家だと思われます。題名からすると想像できません。まさか辛亥革命前夜のロシア・朝鮮を巻き込んだ中国・日本の政治的駆け引きを背景にしているロマンだとは。
日露戦争、義和団事件、日韓併合、満州国建国など歴史の事実を上手に消化して波瀾万丈のミステリーに仕立てています。この手の小説を読むときは年表や百科事典を活用し「虚実の綾」をいくらかでも解きほぐすことをやってみますとより深く面白さを引き出すことが出来ます。
先般コンゲームの話題がこのHPに時々載り、コンゲーム小説の定義は定かではありませんがおそらくこれは上質かつスケールの大きい詐欺師の活躍そのもので、コンゲームそのものだと思います。騙す相手は大日本帝国陸軍ですが最後の最後までハラハラさせられ、もちろん私も気持ちよく何度も何度も騙されてしまいました。
題名がよくないですね。なんでアルファベットなんでしょう。元々は「化して荒波」だったそうですが志水辰夫風で改めさせられたとか。
1997/9/27 記す

横溝正史賞もほとんどがつまらないのだが、これは面白い。最近、文庫で発売されました。
2001/06/24

この正月には映画化されました。
2002/12/24