1993年頃日本で公開されたアラン・コルノー(Alain
Corneau)監督の『めぐり逢う朝 (Tout les matin du
monde)』というフランス映画を記憶されているだろうか?(DVDはカルチュア・パブリッシャー/ポニーキャニオンより発売)ヴィオール(ヴィオラ・
ダ・ガンバ)奏者の師弟、サント・コロンブとマラン・マレの確執を描いた映画である。こ
こで用いられているジョルディ・サヴァールが演奏するサント・コロンブの作品が非常に印象的であり、ヨーロッパでは1992年のセザール賞7部門を独占す
るなど高い評価を受け、大ヒットした映画であった。この映画のヒットを受けて確か『カストラート』などクラシック音楽をテーマとした映画が連続して製作さ
れるきっかけとなったように記憶している。日本ではむしろ『カストラート』の方が話題となり、本作はさほど大きな話題にならなかったようである
が..... ところで、ヴィオラ・ダ・ガンバとはクラシックの古楽器の1つであり、18世紀半ばにはより音量の大きなヴィオラに取って代わられ忘れ去られてしまった 楽器である。しかし最近の古楽器ブームによって再び光が当てられている。ヴィオラの前身とされるが、ヴィオラ同様弓を使って演奏されるにもかかわらず構造 的にはギターやリュートに近いギター族の楽器であり、ヴァイオリン族に属するヴィオラとは異なる。私が、その音色がもっとも大好きな古楽器である。 この映画に描かれたサント・コロンブ(Sainte Colombe 17世紀後半)とマラン・マレ(Marin Marais 1656-1728)はいずれも実在のヴィオラ・ダ・ガンバ奏者&作曲家である。マラン・マレはヴィオラ・ダ・ガンバの作曲家として広く知られている。し かしその師匠であるサント・コロンブはヴィオラ・ダ・ガンバに7番目の弦を追加して改良したことで知られてきたが、その実像はなぞに包まれている。なにせ 生没年さえ不詳なのである。1966年に最初の作品が発見されるまで、ヴィオラ・ダ・ガンバの名手として名のみ辛うじて伝えられてきた。その作品もわずか しか残されていない。マラン・マレの師匠だったこと、そして娘がおり、娘とともに家族コンサートを開いていたこと、そして、サント・コロンブからもう教え ることがないとレッスンを拒否されたマラン・マレが、サント・コロンブの演奏テクニックを盗もうと、師匠の家の庭に忍び込んだ、というようなエピソードが 断片的に伝えられているだけである。このような断片的なエピソードから脚本担当のパスカル・キニャール(Pascal Quignard)が大幅に脚色してサント・コロンブ像を創造したのが『めぐり逢う朝』である。 この映画が大変印象的だったので輸入レコードショップでサント・コロンブのCDを見つけるたびに買い込んでいたのだが、買っているうちに、なんとまあ、 ライナーノートに書かれているサント・コロンブ像がまったく異なるのに気づいた。 私の知る限り最初に出されたサント・コロンブの作品集は映画でも演奏していたジョルディ・サヴァル(Jordi Savall)とウィーランド・クイケン(Wieland Kuiken)によるフランスのアストレ(ASTREE)から出された2丁のヴィオルのためのコンセール(LPレコード カタログ番号 ASTREE AS10, 1976年、CD化は1988年 カタログ番号 ASTREE/AUVIDIS E7729)、そして映画が公開された翌1992年に同じ奏者・レーベルでその第2集のCDが発行される(ASTREE/AUVIDIS E8743) 。もちろん、AUVIDISより『めぐり逢う朝』のサントラも発売されそこにもサント・コロンブの作品が収められている。 コンセール第1集のLPおよびCDのライナーノートには上で述べたような内容が紹介されているのであるが、『めぐり逢う朝』公開後サント・コロンブに対 する関心・研究が高まったらしく第2集には驚くべき新「事実」が書かれている。サント・コロンブの正体は実は映画とは異なりリヨンに住んでいたオーギュス タン・ ドートルクール (Augustin Dautrecourt)だというのだ。 (この項 続く) |
本稿で
紹介したディスク DVD めぐり逢う朝(Tout les matin du monde: 監督 Alain Corneau) 日本 カルチュア・パブリッシャー/ポニー・キャニオン PCBX-50165 映画制作1991年 DVD発売2000年 CD Sainte Colombe: Conserts a deux violes esgales 演奏 Wieland Kuiken, Jordi Savall フランス ASTREE/AUVIDIS E7729 1976年録音 1988年発行 (オリジナル LPは1976年) Sainte Colombe: Conserts a deux violes esgales Tome II 演奏 Jordi Savall, Wieland Kuiken フランス ASTREE/AUVIDIS E7729 1992年録音・発行 |