「――――完璧だわ!」
パソコンに向かい格闘していた少女は、満足そうにうなづいた。
「後は――協力者が必要ね」






真相はどこだ!?



最近、ドラミの様子が変だという噂は、ドラえもんズの間にあっという間に広まった。
そんな事を聞かされて、大人しくしていられるわけもなく。
現在、早急に集まった仲間達は『噂の真相を探る会』を結成した所であった。


「……みんな、どうしたの?」
セワシの家に帰るなりドラミを待ち受けていたのは、なぜか必死な形相の、よく知る一同だった。
その中には、のび太のお世話で忙しいはずの兄の姿まである。
「…お兄ちゃんまで……。何かあったの?」
黙ったままの一同に不安になり尋ねてみる。
すると、意を決したかのようにドラえもんが前に出て、深刻な顔つきで、
「…………………ドラミ」
「なあに?」
「…………………誰と会ってきたの?」
「え!?」
ドラえもんの質問に、少女が一瞬固まったのが分かった。
「お、お友達とよ?」と笑ってみせるが、その笑顔が少々引きつっていることには本人は気づいていないらしい。
「友達って―――」
「み、みんなお腹すいてない? どら焼き作ってあるの。今出すわね」
詰め寄ろうとするドラえもんの言葉を遮るかのように、早口で言うとドラミはキッチンへ走った。

それを見送った一同は呆然としていた。
妹を溺愛する兄は、特にひどい。
――あの素直な少女が、懸命に隠そうとしている状況からして、これは本当に。


「密会だね」
セワシの部屋に席をかえ、部屋の住人は嘆いた。
円を描くように座った一同の中心には、ドラミお手製のどら焼きの山がそびえ立っている。
いつもなら飛びつくはずのキッドやエルも、今日は借りてきた猫のように大人しい。
ただリーニョだけが「おいしいな〜v」と食べていた。
「ここの所、毎日なんだ。最初は気にしてなかったけど、誰と会ってたのか全然教えてくれないし…。変に隠そうとするんだ。………ドラえもんになら話すかと思ったけど……」
「……話してもらえなかった…………」
ぼそりとつぶやく彼は、普段とはまったく違い小さく見える。
「ま、まあ、でも女性の方と会っていたのかも知れませんし…」
邪悪なムードになりつつあるこの場を抑えようと王ドラがフォローを入れるが、
「男の人に決まってるじゃないか!! それ以外隠す必要なんてないだろう!」
「そうだよ、王ドラ!! 〜〜〜あああ、僕のドラミがどこの馬の骨とも分からない奴に騙されて……………」
セワシとドラえもんの怒りに満ちたドアップを直に受け、すでに手遅れだった事を知る。
「だいたいキッド! 君が愛想つかされるようなことしたんじゃないだろうね?」
ドラえもんの怒りの矛先は、ドラミの恋人であるキッドへと向く。
とんでもない事を言われ、キッドは慌てて立ち上がった。
「な、何言ってんだよ。何で俺が!」
「いやいや、分からないぜ。キッドは結構鈍いからなあ。知らないうちに傷つけていて、その傷を癒すために密会しているって事だって――」
なるほど、そうかもしれないと納得する一同。
が、キッドは出来るはずがない。
「エル!! 〜〜てめえ、俺に恨みでもあんのか!!」
「………山ほど」
「〜〜!!」
言い争いから乱闘に変わりそうになったのを、
「落ち着け。キッド」
静かな深みのある声の主が止めた。
「ニコフ……」
「仲間同士でケンカをしている時じゃないだろう」
「そうであ〜るな。我輩たちは『噂の真相を探る会』のメンバー。とにかく、次にドラミ殿が密会される時ついていってみるしかないであろう」
大胆な作戦をたてるメッドが一同には輝いて見えた。
「じゃあ、明日、かな」
ここ数日の傾向からそう推測するセワシの目の前に、一枚のタロットカードが現れた。
持ち主の彼に視線が集まる。
「いや、今すぐであるよ」
確信に満ちた微笑をみせるメッドの隣では、「ごちそうさまでした♪」とリーニョがどら焼きの山を完食しきっていたりした。



ドラミは時計を気にしながらそこに立っていた。
恋人達の待ち合わせの場所として有名な水時計の前である。
そこから少し離れたところで一同はじっと相手が来るのを待つ。
「しかし…本当にメッドの言う通りでしたね」
関心に満ちて王ドラはひそひそとささやく。
「だな。やっぱりお前の占いってすげえんだな〜」
「いやいや、今回は占いではないであるよ、エル。ただ、ドラミ殿の焦り方などから考えて、密会がばれそうになっている事を相手に伝えに行くのではないかと思われてな」
「へ〜。……じゃあ、なんでタロットカードなんか出したんだよ?」
確かにそうである。
耳を傾け、返された言葉は。
「雰囲気であ〜る♪」
脱力するには十分なものであった。



そうして数分経った頃だろうか。
「来た!」
誰かが小さく叫んだ。
一斉に全員の全神経はそちらへ向けられる。
ドラミのもとにやってきたのは、まだ暑さも残る季節だというのに真っ黒なローブに身を包んだ、見るからに怪しい人物。フードをかぶっている上に、位置も影響して顔はうかがえない。
その人物にドラミは身振り手振りを加え何かを話し始めた。
しかし距離や、その他の雑音などが邪魔して聞き取る事は出来ない。
「これじゃあ、何のために来たのかわかんないよ!」
「…でも乗り込んでいくわけにもいきませんしねえ」

「ふふふふふふふふ」
「……ドラえもん、どうどう」

「…? どうしたであるか、エル?」
「……いや……」
黒一色の人物をじっと観察していたエルは、言葉を濁す。
う〜ん、と腕を組み「でもなー」「違うか?」とぶつぶつ呟く様子に、じれったくなったキッドがうながす。
「なんなんだよ。いいから、言ってみろって! 気になるだろーが」
「…あ〜。あのさ」

「僕!」
大人しくしていたリーニョが突然立ち上がった。なんだなんだと、それぞれの会話がぴたりと止む。
リーニョは普段と変わらぬ、澄み切った笑顔で、
「聞いてきてあげるねv」
一同を固まらせる言葉を残し、さらには「ドラミちゃ〜ん♪」と大声でぶんぶんと激しく手を振りながら駆け出してしまった。
「…リーニョ。それではこっそりつけてきた意味が無いであるよ……」



案の定。メッドの嘆き通り、ドラミに見つかってしまった。
密会の相手は、顔を隠すようにフードを手でひっぱり、うつむいている。
一方ドラミは、後をつけられていたことに少々怒り気味だ。
「もう! リーニョに名前を呼ばれた時は本当に驚いたわ! …メッドや王ドラさんまで一緒になって!」
(……そのメッドが首謀者のような気もしますけど……)と思いつつ、信頼されていたようなお怒りの言葉に、すみませんと頭を下げるも、少し嬉しくもあった。
「でもね、ドラミちゃん!」
セワシがドラミの手を取りすがるような目で訴える。
この表情には弱いドラミは言葉を詰まらせてしまう。
「ドラミちゃんの後をついてきたのは本当に悪かったと思う。ごめんね。でも、心配だったんだ! ドラミちゃん、この頃いつもと様子が違うし……」
「セワシさん……」
「何か悩んでいるんだったら僕たちも力になるよ? キッドに制裁をくだす事だって朝飯前さ!」
「………おいおいおいおい」
非常に真実味があるだけに、キッドは頭が痛くなった。
しかしキッドの心情などお構いなしに、ここぞとばかりに、
「だから! 教えて欲しいんだ。その人、誰なの? どうして密会してたの?」

しばらく沈黙が続いた。
ドラミはちらりと黒いローブの人物を見て、ちらりと兄を見る。
そしてうつむいてしまうのだ。
その様子にセワシはぴんと来た。
「……もしかして、ドラえもんがいるから話せない…とか?」
「!? そ、そんなことないよね? ドラミ」
「いーや、きっとそうだよ。あたってるでしょ?」
ドラミは申し訳なさそうな表情を兄に向けると、セワシに小さくうなづいた。
――ピシッ。
効果音と共にドラえもんは凍りついた。
セワシはかちかちの親友を、どこからかとりだしたロープでぐるぐる巻きに巻きつけ、随時装備している注文機を使った。
「ご依頼ありがとうございます! 早い、安い、安心が自慢の宅急便ヤマトです」
すごい風と共に一瞬で現れた、バイクに乗った満面笑顔の青年から注文書を受け取り、手なれた様子で記入してずいっとドラえもんを差し出した。
「二十世紀の野比のび太の部屋までよろしくお願いします」
「はい、承りました。では代金の方は後ほどお受け取りに参ります!」
ドラえもんをバイクの後ろの、四次元空間で出来た箱に放り込むと、青年はワープして消えた。

「セ、セワシ、お前って奴は…末恐ろしいな」
「やだなあ、キッド。僕は僕に出来る最善策をとったまでだよ」
「でもセワシくん、ドラえもん大丈夫〜?」
「大丈夫、大丈夫。ちゃんと壊れ物だから気をつけて扱ってくれるようにしたし、速達だから生ものでもオッケーだからねv」
「そっか〜、それなら大丈夫だね〜v」
「…そういう問題でしょうか?」
王ドラの正論は、すでに意味が無いものであったのは言うまでもない。


「それで? その人はいったい誰なの?」
完璧に話せる状況を作り上がっての再度の質問に答えたのは、意外な人物だった。
「……ノラミャーコ、だろ?」
エルマタドーラ、その人だ。
一同は――ドラミまでも目を丸くする。
すると、正解だとでも言うようにドラミの隣に立っていた人物はフードを取った。
きれいな顔立ち、薄紫色のようなピンク色のようなさらさらとした髪。
「どうしてわかったの?」
優しい声。
まさしく彼女は、ドラえもんズが知るノラミャーコだった。
「そうか! さっき言いかけていたことはこれであるな」
「まあな」
「でも本当にどうして分かったんですか? まったく気づきませんでした」
「ばーか」
そう言うと、手品よろしくで出したバラの花をノラミャーコに渡し、にやっと笑みを浮かべた。
「どんな変装してようと、美しいお嬢さんがわからないなんてことあるはず無いんだよ」
「ふふ、さすがエルね」
ノラミャーコのお褒めの言葉に軽くお辞儀をしてみせる。
これで謎は一つ解けた。
だが、もう一つの謎はこれで余計に分からなくなった。
「ドラミ。ノラミャーコと会ってたならそう言えばいいじゃねえか。だいたい、なんでわざわざ変装なんかしてんだよ」
キッドの言う事は最もだ。隠す理由がわからない。
ドラミとノラミャーコは顔をあわせて、クスリと笑った。
「本当はね、みんなのことも驚かそうと思っていたの」
「だから見つからないようにって、こっそり準備してきたんだけど…。こうなったら手伝ってもらいましょうか、ドラミちゃんv」
「手伝うって、何を〜?」
首を傾げるリーニョに、「これよv」と小さな小箱を取り出してボタンを押すと。

『――ドラえもん! お誕生日おめでとう♪―― 計画完成予想図』

という文字と共に、料理や飾り付けがされた部屋の立体映像が現れた。

「もうすぐドラえもんのお誕生日でしょう? 今年は盛大にお祝いしたいなと思って、一生懸命考えたのよ。さすがに一人では無理だから、ドラミちゃんに協力してもらっていたの」
「お料理はね、ジェドーラさんとニガニガさんにも手伝ってもらう事になってるの。特別メニューを用意してくれるって、頑張ってくれてるわv」
「あとはお部屋の飾りつけを完成させないといけないのよね」
「ノラミャーコさんの考えた飾りつけ、とってもかわいくて完成が楽しみ!」
「ありがとう、ドラミちゃん♪」

「すごいね〜!」とはしゃぐリーニョを除いて、一同はそれぞれに脱力する。
心配するような密会では全くなかったというわけだ。
確かにドラえもんが居ては言えないだろう。
噂の真相を探る会を結成した時がなんだかとても懐かしい。

――もうすぐやってくる親友の誕生日。

セワシとドラえもんズは、お互いに苦笑し合い、
「そういうことなら、もちろん協力するよ!」
「力仕事なら任せてくれよな」
「プレゼントも考えねば」
「わくわくするねv」
「味見なら得意だぜ?」
「それはジェドーラたちの担当です…」
「とりあえず、何から手伝えばいい?」
セワシ、エル、メッド、リーニョ、キッド、王ドラ、ニコフの言葉に、二人はほほ笑む。
「そうね、じゃあ…」
「買出しに行きましょうか!」
(きっと素敵なパーティーになるわ!)
ノラミャーコはそう確信に満ちていた。



しかし。意気揚々と目的地を目指し始めた一同は忘れていた。
ドラえもんにとって未だ真相は謎のままで、今彼がどうなっていているのかを――。










――二十世紀の野比家にて――

いつものように部屋でマンガ本を読んでいたら、とつぜん「速達です!」という明るい声と共に、どさりと見慣れた彼が落ちてきた。
ただ普段と違うところといえば、ロープでグルグル巻にされているということと、しくしくとすすり泣きが聞こえる事。
本を閉じ、「……どうしたの?」と声をかける。
「……僕はお兄ちゃん失格だ……。うううう……」
何があったのかは分からないが、誰がドラえもんを自分の所に送ってきたかは想像が出来た。
(セワシくん、あいかわらずすごいなあ…)
ある意味感心してしまうが、さすがに痛々しい親友を見ているのは忍びなく、ロープの結び目に手をかける。
「うわ。固結びか…。――ドラえもん? これがはずれたら一緒におやつでも食べようよ。とっておいたからさ。今日はママの手作りどら焼きだよ」
「の、のび太くん………。君って奴は………」
のび太の心遣いにさらに激しくなくドラえもんであった。








その後。パーティーは、ノラミャーコとドラミの最強な笑顔効果もあり、無事成功を収めた。
ただ、それから数日間、悪夢にうなされるセワシの姿があったとか。

固まっていても誰が自分をグルグル巻にして、宅急便に預けたかは分かっていたらしかった。





終わり。








 れく様から、ドラバーズデー小説を頂きました!!

 ミャーコさんからセワシくん、のび太までもが総登場のオールキャラですよ! 皆にお祝いしてもらえてよかったね、ドラえもん!というオメデタイ内容なのですv(微妙にドラ不幸な気もしますが/笑)
 そして、さりげにのんのさんの描かれたドラえもんお誕生日絵に即した内容なのですね! そっか、だからミャーコさんは黒い服だったのね、と妙に納得☆ 最初に正体に気がつくのがエルだなんてとこがまた、管理人サイドのツボをよくわかっていらっしゃいます…(笑)
 リニョの天然まるだしなとことか、ニコフの美味しいとこ(笑)とか、それぞれが「らしくて」イイですね! れく様有難うございました〜!!(よち)

頂きもの  未来世界図