季節は夏。
夏と言えば、やっぱり海。
ということで、誰が言い出したかは忘れてしまったが、ドラえもんズは海に行く事にした。






海に行こうよ!



メンバーはお馴染みドラズとドラミ。そして今回はノラミャーコとミミコもいる。
女の子一人では寂しいからと、ドラミが誘ったのだ。
反対する理由など何もなく、むしろ人数が多いほうが楽しいので大歓迎ムードの中、日にちが明日に決まった。
今日は、明日のための買出しだ。



「……よりによって、バーゲンセールの日か…」
お嬢さん方の熱気に負けそうだぜ、と苦笑する赤い髪をした男。

「………暑くて…とてもじゃないが俺はこれ以上動けそうにない……」
隣に立っている男はすでにばて気味のようだ。
はて?――と、赤い髪の男が首をかしげる。
「ドラニコフ、おまえが寒いの苦手なのは知ってるけど、暑いのもダメなのかよ」
「ダメというか―――こういう人込みのなんともいえない暑さは苦手だ……」
「なるほど」
丸いものでも見たのか、少々イライラしているのか、今日のニコフとは会話が続く。
デパートの全階で繰り広げられているであろう女の死闘の一部を目の当たりにして、男性陣が多少迫力負けしている所に。


「お待たせ、エル、ニコフ。お会計済ませてきたわ」


両手に山ほどの荷物を抱えて、買出しメンバー唯一の女性が戻ってきた。
いや、荷物を抱えていると言うよりは、荷物に抱えられているような感じで、ふらふらしていて危なっかしい。
ドラニコフは死力を尽くし、エル・マタドーラは燃えるお嬢さん方を尊敬しながら買い揃えた品々。食料、お菓子はもちろん、その他のアイテムもばっちりそろったはずだ。

ドラミから荷物を受け取ったエルが四次元ポケットにすべてしまい終えたのを見て、やっと帰れるとホッとしたニコフだが、………ぬか喜びだった。


「じゃあ、次ぎ行きましょうか!」

ズザザッ。
あまりにもショックが大きく、ニコフはナイスなこけっぷりを披露した。

「次って…まだ何か買う物があるのか? ドラミ」

明日いるものならば仕方ないかと、弱々しく尋ねると、

「せっかくバーゲンやってるし、水着とか見たいなあ…って思ったんだけど…ダメ?」
「いいよな、ニコフ?」

エル・マタドーラのやや脅しに似た問いよりも、ドラミの無意識な上目遣いに勝つ方法を知らない。
ニコフは小さくため息をつく。

「俺はその間休んでるけど、それでいいなら」

結局、彼もまたドラミには弱いのだった。










……暑い。
階ごとに置かれているイスに座りながら、ニコフは独りぐったりとしていた。
温度調節は完璧に行われているはずなのに、あまり涼しくならない。

ふと、水着売り場の方に目をやれば、二人の姿が映った。
(……元気だな…………)
遠いので会話は聞こえないが、ドラミが次々と水着を選んで、エルに感想を求めているというのはわかる。
やはり女の子。ドラミは真剣に悩んでいる。
エルはそんな彼女を優しい目で見つめていて。
それはそれはほほ笑ましいカップルで――――――。

(って、違う。…エルは確かにドラミが好きだが……ドラミは……)
しかしそれを踏まえても、二人を見ていると、


「見て見て〜vv あのカップル、めちゃくちゃ仲いいよ〜vv」

そう、カップルに見えてしまう。
横の方から聞こえてきた声に思わず同意してしまったニコフは、ちらっとそちらを伺う。

「ほんとだ! いいね〜、彼氏もすごく優しそうだし、かっこいいしさ」
「羨ましいねー」

若い女性二人が、手に荷物を持ちながらきゃあきゃあと騒いで買い物をしていた。
シスコンの兄がここにいたら、怒りそうな発言をしていったが、運がいいことにそれを聞いたのはニコフだけ。

だが。
…ドラミの彼氏は今ごろ悪党を追い掛け回していると思われる。


(……まあ、でも…)
エルの気持ちは痛いほどよく知っている。
心からドラミを愛し、けれど決して伝えないだろうと言う事も。

(今日くらい…カップルだと思われてても……いいよな)
今日はこの三人しかいないのだからと、ニコフは自分にうなづいた。


しかし。
暑さだけはどうにもならず。
早く終わってくれないものかと、視線を戻すと、
(…どこに…)
そこに二人の姿はなく。きょろきょろと辺りを見回したとき、ひやっと冷たいものが背後から頬に当てられた。
驚いて振り返れば、ジュースの缶を二個持ったドラミと、コーヒーを片手ににやにやと笑うエルがいた。

「大成功だな、ドラミ。…ニコフ〜、びびったろ?」
「……あのなあ」

――子供か、お前わ。
そんなニコフの心のツッコミなど聞こえないので、エルは満足気だ。
ドラミもくすくす笑っている。

「ニコフってば、全然気づかないんだもの」
「…暑くて、な」

実際に考えていたのは他の事だが、言えるわけもなく。
本気半分、誤魔化し半分の言葉だったのだが、ドラミは心配そうな表情になる。

「あ、……ごめんね、ニコフ。……気分、どう? これ、飲み易いと思うの。冷たいし」

飲んで、とジュースを渡されるままに口にする。
なるほどすっきりとした味で気分が少しすっとした。
一方ドラミは罪悪感を感じているようで、表情が晴れない。

ニコフは立ち上がると、ドラミの頭をぽんぽんと叩いた。
「…ありがとう。あと、気にするな。お前が謝る事じゃないさ」
「そうそう。これくらいの事で弱音はいてる奴が悪いんだし」

―――わかってはいる。
エルはただ自分と同様、ドラミを元気付けたいのだろうという事くらいは。

だが。
暑さに多少なりと苛立っている所には、少しの嫌味ですら逆鱗に触れてしまう。


「……エル、ケンカでも売りたいのか?」
「まさか。んなことしたら、余計暑いだろ」

けろっと言い、「水着も買ったし。――帰るか?」とドラミに尋ねるエル。
そうね、ありがとう。と答える彼女にエルはやはり優しくほほ笑んだ。
そして、その様子をボーっと見ていたニコフに向き、

「帰って、涼しい部屋でシェスタでもしようぜ」

にっと、笑ったのだった。











前を歩く二人を、いや、エルを見ながらニコフは思う。
どうやら、暑くて限界に近かったのは彼も同じだったようだ。
顔に出さないので、先ほどの笑みを見るまでまったく気づかなかったが。



―――大好きな相手の笑顔を見ていたい。



理由は、そんな無意識の想いからだろう。
そのためなら、無理を無理とも感じないのかもしれない。



(……本当にエルは、ドラミが好きなんだな………)
ニコフは一人苦笑する。
きっと彼は、ドラミの幸せを守るためならその身すらも捧げてしまう。

(…その時は、俺が止めるさ)
自分に誓うように、目を軽く閉じた。

ニコフにとって、ドラミもエルもキッドも同じくらい大切な存在だ。

(だいたい、エルが犠牲になって助かったって、ドラミは喜ばない。…泣くからな)



ふと、目を開くと、青い青い空が飛び込んできた。
再び視線を前に戻せば、先ほどと変わらぬ二人の姿。

「……そうだな」


いつの間にか暗くなっていた思考。
それらがバカらしく思えるほど、空は青くて、二人は笑っている。



全てはこの暑さのせい。



ニコフは、明日の海はこんな暑さじゃないといいな、と今日一番穏やかな笑顔でほほ笑んだ。










一方。

ドラミと話をしながらも、二歩以上遅れて歩くニコフを気にかけていたエルは、その行動の一部始終を実は見ていた。――というか、なんとなく感じていたというか。


苦笑して、目を閉じて、暗くなって、目を開けて、空を見て、自分達を見て、「そうだな」とつぶやいて、ほほ笑む。


(………暑さでオーバーヒート気味なのか?? ――頭が)


口に出していたら確実にお怒りを買いそうな考えは、幸いにも言葉にならず、平穏な帰り道であったのは救いである。



……続く?








 れく様から、エルラミ+ニコフ小説を頂きました!!

 暑さに弱いニコフが可愛い〜v(え、ソコから?) ていうか、ニコフが大人なのかエルも大人なのかエルラミがお似合いなのか、もうなんなんでしょう! 世のエルラミに飢えてるお嬢さん方(エル調)コレを見よ! ていうか、ニコフに飢えてる方も見よ!(笑)
 あくまで傍観者であろうとするニコフが、そんな自分とか、エルとラミのふたりに対してとか、気温だけじゃない何かにイライラしちゃう気持ち、すごく伝わってきますよ〜。

 しかし、私的に一番ときめいたのは、悪党を追い掛け回しているカレシくんですv 1行でカッコよすぎ!(笑)(よち)

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