Shooting Star 悪い夢を見て目が覚めると、怪訝そうにこちらを覗きこむ青年と目が合った。 艶やかな紫の髪。鋭い感じのする、細い体躯の青年。 「……ドラムズ…?」 少し掠れた寝起きの声に、ドラムズは表情を動かさない。 「大丈夫ですか?ドラミ」 大丈夫だとドラミが答えると、ドラムズは一度頷いて踵を返した。 「コーヒーを淹れてきます。少し待っていてください」 ドラムズが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、ドラミはぼんやりと外を眺めていた。 すっきりとしない頭で、晴れた空を見る。 他の国に来ると、心なしか空の色まで違うような気がする。 ドラミがドラムズと共に暮らすようになってから、もう1週間が経つ。 きっかけは些細なことで、ドラムズが訪問のついでに「最近街中での捜査や尾行が多くて困る」という話をしたのが始まりだった。 彼は有能な探偵なのだが方向音痴という弱点があり、推理は出来ても捜査や尾行のような実際に動く仕事には向いていない。そこでドラミがしばらく彼の助手を務めることになったのである。 本当はドラミが近くのアパートに部屋を借りて事務所に通うという話だったのだが、この辺りの家賃は馬鹿にならないし、何より部屋は余っているとドラムズが説得した結果、こんな生活が成り立っている。 ドラミはお互い気を使うから遠慮すると言ったのだが、頼んだのは元々こちらだから、と言ってドラムズはドラミを住まわせた。生活するフロアはほとんど区切られているから、心配する必要はないのだと付け加えて。 一緒に生活するほうが仕事上合理的だからなのか、それとも一人暮らしの危険を案じてくれているのかドラミにはわからなかったけれど、多分両方だろうと思った。 ドラムズの事務所の周辺は市場やカフェが建ち並ぶ地区で、古めかしいが美しい雰囲気に包まれた通りにある。 ドラミはここに住んで初めて彼の性格や気質を深く知ったような気がした。この街は彼と良く似ていると思う。厳格で清潔で、そしてどこか優しい。 「そろそろカフェが混みはじめる時間です。朝食を食べに行きましょう」 ドラムズが言った。 ドラミは頷くと上着を羽織って彼の後に続いた。 まだ7時を過ぎたあたりだというのに、カフェは結構賑わっていた。 席につくとすぐに給仕が注文を取りに来る。 「スコーンを。それから彼女にはホットケーキ……飲み物は紅茶でいいですか?」 「ええ」 「それじゃ、紅茶を二つ。ダージリンで」 「かしこまりました」 給仕が立ち去ると、ドラムズは早速電子新聞に目を通し始めた。ここで電子新聞を読むのは彼の日課らしい。ドラミも彼に倣って近くのマガジンラックから雑誌を取り出した。無造作に開くと、偶然にもそのページは大怪盗・ドラパンについての特集だった。写真の彼は生き生きしていてとても元気そうだ。ドラミはクスクスと笑った。紙面に陽光が差し込む。紙のいい匂いがする。鳥の鳴き声と教会の鐘の音が耳の中でとけて混ざった。胸の奥が温かくなる。 ドラミの忍び笑いに気付いたドラムズが、興味深そうに尋いた。 「楽しそうですね。一体何の記事ですか?」 ドラミは微笑した。 「それはね……ヒミツよ」 「そう言われると逆に気になりますね……当ててみましょうか」 ドラムズは足を組み替えた。ドラミはかわいらしく答えた。 「どうぞ」 「ドラえもんズの誰かの記事でしょう」 「いいえ、違うわ」 「…となると、ロボット学校の同窓会のお知らせですか?」 再度否定されてドラムズは唸る。 「……困ったな。手がかりが少なすぎる。ヒントはありませんか?」 「ヒント?……ふふ」 ドラミは楽しそうに笑う。 「あなたも知っている人よ」 ドラムズは腕組みをして考える。その合間に給仕が注文したメニューを持ってやって来た。 遠くでビッグベンの鐘が鳴っている。 食事を終えた二人は早速依頼の調査に向かった。 「君は、どちらの現場から始めればいいと思いますか?」 「ええと…」 ドラミは手元の地図を眺めてしばらく考えていたが、やがて一点を指差した。 「こっちは、午前中の人通りが少ないうちに調べた方がいいと思うわ」 「了解」 ドラムズは言った。 「それにしてもこの事件、憎くてたまらない男を殺すのが目標だったとは。こんなに不明瞭な事件が続発するようでは、警察も対処しきれないでしょうね……君は、何か目標がありますか?」 「目標?……セワシ君を立派な大人にすることと、お兄ちゃんのお手伝いをすることかしら」 ドラミは迷いながらもそう答えた。 「なるほど」 ドラムズは納得したように頷いた。 少し前を歩く彼の背中は、食事前の話題に戻ることを拒否していて、ドラミは少し切なく思った。 結局あれからどちらもドラパンの記事の話題には触れていない。 答えを結局ドラミは言わなかった。その棘に触れられる距離にまだドラミはいない。その想いを、ドラムズはなんとなくわかっている気がした。ドラパンのことは彼の人生観において本当に許せないたぐいの出来事であるらしい。怪盗となった兄のことも。そしてそれが悪ではないと知っていて意地を張ってしまう自分のことも。 彼は本当に自分にも他人にも厳しい人だった。 「ドラミ。行きますよ」 いつの間にか少し歩幅が遅れていたらしく、苛立った彼にドラミは手を引かれて先を急いだ。 繋いだ手を握り返しながらドラミは決意する。 この手伝いが終わったら、きっとドラムズとドラパンが向き合って話せる機会を作りたいと。 出来ることはきっと少ないけれど。 二人の姿は雑踏に飲み込まれ、すぐに見えなくなってしまった。 |
ぎゃ〜!!(絶叫) Kikkawaの吉川アキト様から頂いたドラムズ+ラミ+ちらっとラパン小説です…!! 感動と興奮のあまり、3回くらい読み返すまで、ドラムズさんが当サイトオリジナル隠しドラであるということを忘れ去っていましたv(てへ) あいやー、こうゆう新キャラが今年の映画あたり登場してたのかと思ったヨ!(妄想も甚だしい…) それというもの吉川様が、これ以上ない程、的確にシャーロック・ドラムズ氏の性格やら心境やらを掴んで下さっているからです! 特に「彼の人生観において本当に許せないたぐいの出来事」という一文には目からウロコが落ちました…。私が表現したくて、でも言葉にできてなかった、ドラムズの心中の葛藤がここまで…!(感無量) いったい吉川様はどこで彼をお知りになったのデスカ? ひょっとして私の知らないところで活躍してるの!?(動転) 正統派ヒロイン私の直球ド真ん中!なラミともども、有難うございました! 吉川様! これからもネットの狭間から応援しております〜!!!(よち) ああ、もう、ごたくはさておき、今すぐステキ擬人化小説読みにGO!! |