牧師室より

創世記を読み進めると、そこにはユーフラテス川流域のウルを出発し、カナンの地にたどりついたアブラハム一族の物語がある。イスラエルの民の父祖とされるアブラハム一族は、神様から示された約束の地としてここに住み、他の人々の間で暮らした。  ところで、ガザの南にゲラルという町があって、アビメレクという王がいた。カナンに住むようになったアブラハム一族との間に時々もめごとはあった。しかし、アブラハムとアビメレクは、時に話し合い、時に友好を誓い合って平和に共存していた。また、ゲラル周辺は土地が豊かなペリシテ平原に位置し、アブラハム一族は、飢饉の時には、そこに避難したりもしていた(20〜26章)。  アブラハムの妻サラが亡くなり、ヘト人からマクペラに土地を買って洞窟に埋葬した時も、アブラハムとヘト人との間には、平和的な交渉が行われた(23章)。  もっとさかのぼれば、神様がソドムの町を罪深さゆえに滅ぼそうとした際、アブラハムは、町を滅ぼさぬように執り成そうとさえした(18章)。 平和に人々が暮らし、平和に互いを尊重しあうことを誓い合って暮らそうとしていた日々から、いま学ぶべきことがあるのではないか。慎重な対話と誓約の上に築かれていた平和があったはずだ。「殺すな」と、十戒に示されたことが、国家の名において踏みにじられることがまかり通るのはなぜなのか。 (中沢麻貴)