◇牧師室より◇
『週刊金曜日』(9月1日号)に、『李(すもも)の花は散っても』の著者、深沢潮さん(ふかざわうしお)のインタビュー記事が掲載された。 この作品は、大韓帝国最後の皇太子李垠(イウン)の妃となった日本の元皇族方子(まさこ)と、架空の女性マサの2人の女性を描いたものだ。関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式典に、小池百合子東京都知事が追悼文を送らなくなった。また朝鮮人虐殺はなかったという言論が出てきたので、虐殺があったことを書かなければと思ったという。そこで日本人が朝鮮人と間違われて殺されるシーンも描いている。その理由は、日本人も殺されたことで、より身近に事件を感じられるのではと考えたからだという。 また自警団を作っていた在郷軍人が治安維持に利用されていたとも指摘していた。朝鮮人虐殺は偶発的なことではなく、起こるべくして起きたこと、そのことも作品に描かれている。また「三・一独立運動」は、当時「狂騒事件」と呼ばれたそうだ。このことから、震災が起こる前から朝鮮人は治安を乱す存在だと見られていたことも分かった。 李垠と方子は政略結婚であったわけだが、次第に互いに好意を持つようになったという。戦後、二人とも国から見放されたのだが、互いに大切な存在として認め合い、家族として歩むことになったそうだ。結局のところ、人はどういう人と出会ったのかが大事だ、ということだった。 国家は国策によって民を振り回すけれども、人と人との結びつきを壊すことまではできない。そのことを描くことで、私たちが守るべきものは何か、という点に光を当てている作品に思えた。 (中沢譲)