牧師室より

 スタジオジブリの宮崎駿さんが、新作アニメを発表した。作品名は『君たちはどう生きるか』(2023714日公開)である。

 『君たちはどう生きるか』というタイトルを聞いて、ピンときた方もあると思う。吉野源三郎氏の同名の小説だ。吉野氏は雑誌『世界』の初代編集長を務めた人物でもある。『日本少国民文庫』の最終刊として執筆し、1937年に新潮社から出版されている。吉野氏の作品に登場する主人公は、15歳の少年コペル。悩みを抱くコペル少年に、彼の叔父さんが、メッセージをノートに書いて、ものの見方、社会の構造というテーマを物語る形の小説である。

 自分の意志で自由に考えることが難しい時代である。希望に生きることができるようにと願われて、書かれた作品だろう。政治学者の丸山眞男氏は、吉野氏の追悼文として、「私の魂をゆるがしたのは、自分とほぼ同年輩らしい『おじさん』と自分を同格化したからではなくて、むしろ、『おじさん』によって、人間と社会への眼をはじめて開かれるコペル君の立場に自分を置くことを通じてでした」と書いている。期待されたとおりのインパクトを、読者に与えたことがわかる。

 今、戦前の時代を迎えつつある。「あらたな一歩を踏み出すことができる」と励ます吉野氏に応え、宮崎氏は同名の新たな作品を描く。私たちキリスト者も、希望を示す一年として踏み出したい。   (中沢譲)