牧師室より

 沖縄の人々の言葉に表せない思いをつづったエッセー『海をあげる』(筑摩書房)が、昨年、「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2021年ノンフィクション本大賞」を受賞した。著者は上間陽子さん(琉球大学教育学研究科教授)。2016年に起きた、元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)を世に出した。

 受賞後、星野源さん(音楽家)との対談が『朝日新聞』(20211211日)に掲載された。そこで星野さんはこのように語っている。「上間さんの文章って、いつも目の前で起きていることや動いているご自身の感情を淡々と丁寧に描写されていますよね。それがとても好きです」「読むと、人に伝えたくなります。『感動するから読んで』でもなく、『重い本だから薦められない』でもない。『とにかく読んでみて、素晴らしい本だから』って色んな人に言いたくなる本だなあと思います」と。

 男性的「私小説」とは異なり、読む人を静かに巻き込んで、心を動かす書だと、私も感想を持った。

 作者は、あとがきをこのような言葉で結んでいる。「この本を読んでくださる方に、私は私の絶望を託しました。だからあとに残ったのはただの海、どこまでも広がる青い海です」と。この秋、お薦めの一冊である。          (中沢譲)