牧師室より

 チャイコフスキーの交響曲第2番に「小ロシア」という作品がある。この曲は、チャイコフスキーがウクライナに滞在した時の作品だ。「小ロシア」と名付けたのは、友人のニコライ・D・カシュキン。各章にウクライナ民謡が織り込まれている。

  この交響曲のタイトルを「小ロシア」ではなく、「ウクライナ」として録音した指揮者がいる。ウラディーミル・フェドセーエフである。彼は意識して「ウクライナ」というタイトルに変えたのだと思われる。

 「小ロシア」とはウクライナの旧称である。ちなみに「大ロシア」とは現在のロシアのことを指す。「小ロシア」という表現を、現在のウクライナの人たちは否定的な意味で受けとるという。ウクライナは20世紀に3度飢饉を経験しているが、1932年〜33年に起きた最大規模のものをスターリン体制によるジェノサイド(大虐殺)だとし、2006年に「ホロドモール(人為的大飢饉)はジェノサイド」という法律を制定させている。

岡部芳彦教授(神戸学院大学)は、毎日新聞記者の「ウクライナはなぜ抵抗するのか」という問いに対し、「ウクライナ人がウクライナ人でなくなってしまうからというのが大きな理由です」と答えている。「アイデンティティー」の戦いということなのだ。ウクライナが「ネオナチ」化した理由は、ロシア側にもあるのだと思う。        (中沢譲)