牧師室より

私が、曲がりなりにも演奏できる唯一の楽器は、足踏み式リードオルガンだ。「師匠」は、こだわりの強いお方で、教会のオルガニストになるべくこの楽器を練習するなら、同じ鍵盤楽器だからといってピアノを弾いてはいけませんと、六歳にして申し渡された。曰く、音の出る仕組みが、ピアノは鍵盤を打つと出る弦の音、リードオルガンは鍵盤を押すと開く笛の音で、この違いが演奏技法の違いとなり、ピアノの技法はオルガンの技法を学ぶ上で邪魔になるという理屈。このピアノ禁止令ゆえ、私は未だにピアノを演奏できない。

足踏み式リードオルガンでは、ペダルの踏み方でリード(笛)に送る風量が調整される。各リードの振動部分は金属で、高音なら薄く、低音なら厚いので、音の高さによって、いちばんよく鳴る風量が違う。両手で演奏して複数の音が同時に鳴っている時、送る風の量を微妙に変えることで、いちばん良く歌う(響く)パートが違ってくる。演奏中、背後から師匠に「もっとソプラノを歌わせて」とか「もっとテノールを響かせて」と言われたのを思い出す。いま、電子オルガンを弾きつつ、鍵盤上の指の運びはリードオルガンに準じているが、あの風量の微妙な調整にあたる技法が通用しないことが、歯がゆくて仕方ない。 (中沢麻貴)