牧師室より

25年ほど前、小学生のKくんは、お母さんと一緒に教会学校にやって来た。礼拝中もじっとはしていない。話しかけても視線が合わず、返事がないか、トンチンカンな感じの答えが返ってくる。同じことを何度も質問してくる。お母さんはちょっと大変そうだった。時にはおじいちゃんが一緒に来た。おじいちゃんは、口は悪いけれどKくんの将来を親身に心配している感じがした。

正直、はじめはKくんと一緒に礼拝や分級をするのは大変だな、と思った。でも、Kくんが、正確な音階の美声で讃美歌を歌うのを聞いて感心したり、たぶん前週に学校で行われたらしい避難訓練の注意事項を、一字たがわずマイクで披露したり(説教中のセンセイは焦ったけど)、自分より小さい子たちを、まとめてそっと抱きしめたり、オルガンで奏楽する私の隣にちょこんと腰掛けたり、そういう愉快な経験の中で、Kくんはすっかり教会学校のアイドルになった。私が牧師になって母教会を離れても、Kくんは、ちゃんと私のことを覚えていてくれる。

いま私の手元に一冊の本がある。『ぷかぷかな物語〜障がいのある人と一緒に、今日もせっせと街を耕して〜』。著者の高崎明氏は、養護学校教諭を経てパン屋の店長となった人だ。障がいのある人に魅せられて、共に働くことができるパン屋をはじめ、惣菜店やアートスタジオを地域につくり、今はそれらを運営するNPO法人の理事長である。実は高崎氏のパートナーは私の幼友達だ。Kくんが高崎氏の運営する「カフェベーカリーぷかぷか」の社員となっていたことを知った時の、驚きと喜びを思い出す。今やクリームパン作り名人となったKさんが、『ぷかぷかな物語』の題字を書いたと知り、感激。本を読み進めるうちに、愉快さと温かさで心が耕される。本の最終章は、あの相模原の事件のことに割かれている。そこにはちゃんと、ある「救い」が示されていた。 (中沢麻貴)