牧師室より

桜本教会(川崎)の鈴木文治牧師から、また本を贈呈して頂いた。『なぜ悲劇は起こり続けるのか 共生への道なき道を開く』(2019年、ぷねうま舎)。鈴木牧師のテーマは一貫している。インクルージョン(インクルーシブ教会)への模索である。

 冒頭の第1章は、本のタイトルと同じ「なぜ悲劇は起こり続けるのか この時代の差別と共生」とあり、まず、「津久井やまゆり園事件」を取り上げている。事件発生は、2016726日。事件直後の平和聖日(87日)に、鈴木文治牧師をお招きした。事件の衝撃を共有しつつ、講演をお聞きした記憶がある。

 鈴木牧師は、この事件を「戦後最悪の事件」と表現しているが、同感である。ヘイトクライム(憎悪犯罪)はずいぶんと起きているが、19名の命が奪われ、27名が負傷するという形で、暴力が具現化してしまった事実は大きい。社会に消すことができない深い傷を与えてしまった点が、事件そのものと等しく問題なのだと受け止めている。

キリスト教では「共に生きる」という言葉をよく用いる。「共生」などと縮めて表現することもあるが、「共生」とは何であるのか、そのために何をどう考えていけばよいのか、どう行動すればよいのか、という事柄を考え続けることは実に難しい。

その理由は、「共に生きる」という言葉の反対側には、「共に生きたくない」という感情が潜んでいるからだ。それはどこかの知らない人の感情ではなく、私たち自身の中に潜む感情であるからこそ、この問題に向き合う事は難しいのだろう。

にもかかわらず、「共生」というテーマに真摯に向き合うことが、私たちに求められている。なぜならば、「十字架につけよ」(社会から排除せよ)と叫んだ群衆の姿は、私たち自身の姿では、と思うからだ。受難節は226日からはじまる。(中沢譲)