◇牧師室より◇
クリスマスの時期に演奏される音楽に、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの「メサイア」という曲がある。ちなみに「メサイア」とはメシア(救世主)の英語読みに由来している。
ヘンデルは、バッハと同じ年に、ドイツのザクセン地方で、医師の息子として誕生した。父は息子に法律を学ぶことを期待し、音楽を嫌っていたという。そのためゲオルクは、屋根裏部屋にハープシコードを持ち込み、密かに練習したのだという。ある時、ある公爵が、ゲオルクが教会のオルガン演奏をしているのを聞き、その素晴らしさに驚いたことがきっかけで、父親に音楽の道を進むのを許してもらうことになる。
1712年、G.F.ヘンデルはロンドンに移住し、英国に帰化して、イタリア風オペラの作者として活躍するが、18世紀後半、ロンドンの市民たちが影響力を持つようになる中で、貴族趣味的なオペラではなく、社会風刺の台本によるオペラが求められるようになる。そうした時代の中で、ヘンデルは、「オペラ」から「オラトリオ」へと方向転換することになる。
「オラトリオ」とは、オペラのような演劇的装置や動作はなく、オーケストラと歌唱によって、キリスト教的なドラマを展開する音楽で、英国ではヘンデルが初めて上演した。しかし当初は、聖書の物語を題材にしたことで教会から批判され、そのことが原因で彼は破産し、病に倒れることになる。そのような厳しい時に、彼はある台本と出会う。ヘンデルを励ますために、チャールズ・ジェネンズという人物が書き上げたものだ。聖書の言葉は欽定訳聖書を用いたという。
「メサイア」は多くの人たちを感化したと言われる。メソジスト派の基礎を築いたジョン・ウェスレーは、ヘンデルを特別な天才だと評価し、アメイジング・グレイスの作詞者で英国国教会の牧師であったジョン・ニュートンは、「メサイア」を用いた説教を50回も行ったという。
私たちもまた「メサイア」のように、心に響くクリスマスを整えたい。
(中沢譲)