牧師室より

毎日新聞に、「“子ども食堂”の時代−親と子のSOS− 『わたし、定時で帰ります』が守る子どもの心と体」(可知悠子、北里大学講師2019528日)という記事が掲載された。「わたし、定時で帰ります」(原作は朱野帰子の小説)とは、テレビドラマのタイトルで、労働現場で起きている問題をリアルに描いたことで話題になった。この作品が登場するきっかけとなったのは、安倍政権による「働き方改革」(2016)であろう。原作の執筆開始時期と重なる。

この作品は、働く人の視点からの問題提起となっていて、興味深い。効率良く仕事をこなして定時に退社し、行きつけの店でビールジョッキを傾けて喉を潤すことを日々の目標にする、“健全な”(私個人としての感想)社員が、けっして“わがままな社員”としてではなく、周囲からも理解され評価もされる人物として描かれている。登場人物たちも充実している。「仕事命の皆勤賞社員」「育休から復帰して戦力外通告を恐れるワーキングマザー」「困難にぶつかるとすぐに『仕事を辞める』と言い出す新入社員」「人一倍働く非正規雇用者」らが登場する。主人公はそうした同僚たちと、しっかりとした人間関係を保ちながら、リーダーシップを発揮し、時には上司とも対決する。それでもなお、定時での退社を目指す。その点に働く人たち(視聴者)は共感したのではないだろうか

記事を書いた可知悠子氏は、ドラマを切り口として、子どもを持つ親の長時間労働が、子どもに与える負の影響を指摘する。両親の長時間労働は、子どもにとっては「公害」と同じで、健康を損なうリスクがあると。しかも同時に、家庭責任を負わない人たちが、子どもを持つ同僚を優先することで、不公平感を抱かないような環境づくりの提案も行っている。

 ところで、最近は会社の改革をテーマにするドラマが増えているように感じる。以前紹介した「ハゲタカ」は、外資ファンドが日本企業の再建を目指す物語。「集団左遷!!」は、銀行員が銀行を内部から改革する物語。「わたし、定時で帰ります」は、働く人が人生を豊かに生きるために会社を改革する物語だと言える。世界に誇れる企業だと思われていた日本企業群が、実は脆く、深刻な問題を抱えているのでは、という共通の認識の中で、「再生」がテーマにされるのだろうと思う。

 日本のキリスト教界も似ているかもしれない。「再生」を描くことは可能だろうか。      (中沢譲)