牧師室より

仕事にここまで支障が出るほど寝込んだのは十年ぶりくらい。ご迷惑をおかけしたが、皆さまのご加祷に深く感謝である。元気になりました。

 発熱や咳で寝込む時、枕元の友は『しゃばけ』シリーズ(畠中恵著)に、いつしかなった。時は江戸時代、大店の若だんな一太郎が主人公の連作短編小説。時代物ファンタジーとでも呼ぶのだろうか。一太郎、祖母は名のある大妖怪で、自身も人には見えぬ妖(あやかし)が見える。お店を取り仕切っている手代の二人も、一太郎の兄替わり兼教育係として親身だが、正体は実力のある妖である。その他大勢の人ならぬ者が登場し、毎回なんとなく助け合って事件を解決したり、困難を切り抜けたりする。一太郎が、ちょっと外出しただけで発熱して寝込むほど体が弱いという設定が面白く、さらに家族も手代たちも、こぞって過保護に徹底する。絶対無理をしてはいけません、頑張らねばならぬようなことは誰かに代わりにやらせます、と日々周囲から言われ、むしろ一太郎は己の将来に不安を抱く。人として、弱いなりに物事を切り抜けていくために、また自分へ愛情を注ぐものたちの役に立つように、知恵を絞るのだ。若者が、病を克服する話ではなく、病弱な若者が、利益至上主義や優勝劣敗の世間を克服してしまう話だ。

 病弱でも、妖怪が味方についていれば大丈夫という構図は、弱者でも、聖霊が味方についていれば大丈夫、に似ていると、ふと思う。ファミリーデイは、神の家族としての教会ということを想う日。その“家族”をよく見回すと、見えないけれど聖霊がそこここに混じっていたりして。

手代達は、強暴なる妖だが、一太郎への愛情第一で行動する。ただ、神仙界の感覚で、百年も一刻な面があり、一太郎を時に戸惑わす。一太郎は、妖を完全には理解できないが、信頼する。意外に深い。(中沢麻貴)