牧師室より

米国の中間選挙も近づいた10月末頃、米国に向かう“移民”キャラバンのことが話題になっていた。ホンジュラスを母国とする人たちを中心に、数千人の人たちが、米国国境を目指した。これに対して米国側は、対抗策として「暫定最終規定」なるルールを発表し、大統領布告の入国制限に違反して国境を越えた人たちは難民申請ができなくなることを明らかにした。その後、新天地を目指した人たちは逮捕され、子どもたちは親から引き離されたということが報道されている。

 ホンジュラスに限らず、ラテンアメリカの国々は、「先進国」と国際金融機関とによる、新自由主義と呼ばれる政策に翻弄されてきた。融資と引き替えに、国際収支の改善と債務返済の優先を求められるのだ。つまり、バナナやコーヒーの輸出でいくら外貨を稼いでも、その利益は国民には還元されず、債務返済に充てられる。利益はすべて「先進国」に吸い取られるという仕組みなのである。この問題は20世紀の後半から、国際NGOによってさんざん暴露されてきた事柄であり、知っておられる方もあることと思う。国民は低賃金労働者として、「先進国」の企業が経営する農園で働かされ、国民の教育や医療に充てるべき国家財政もなく、利益は軍部や一部の裕福な国民にだけ還元される政策であった。それがこのネオリベラリズム(新自由主義)の特徴である。現在では「先進国」でも導入され、日本でも貧富の差が拡大している。

1990年代、米国カリフォルニア州では、犯罪歴のある中米出身者の本国送還を実施した。ホンジュラスにも3千人の若者が送還されたという。その後、彼らは本国でギャング団を形成し社会問題になった。そうした社会不安と経済的な展望のなさが、今回の“移民キャラバン”の背景にある。カリフォルニア州では、もともと農業の繁忙期に外国人労働者を雇用し、農閑期に国外追放するということをしてきたらしい。いつでも切り捨てることができる安価で便利な労働力として、“移民”は位置してきたのである。

これに似た政策を行っているのが安倍政権である。新たな外国人労働者受入制度は、(戦前の記憶もあってのことだろうが)安価な労働力を求める経済界の要望に応えるためなのだろう。それだけに外国人労働者の人権(労働環境、賃金など)が心配である。米国の出来事は、他人ごとではない。       (中沢譲)