牧師室より

 北海道での学生時代、今のようにインターネットで情報を得る時代ではなかったので、新聞は重要な情報源だった。全国紙に、日々目を通すことに加え、北海道の情報なら『北海道新聞』(通称「道新」)、住んでいた十勝の情報なら『十勝毎日』(通称「勝毎」)。ほかに、農業畜産系のいわゆる業界紙もチェックしていた。

 ある日、朝日・毎日・道新の一面は同じ記事だったのに、勝毎だけ一面が異なる様相だった。黒々とした大見出しで「大樹町に宇宙基地」。大樹町は、帯広郊外にあり、同じ研究室の学生たちには、生物調査で行くこともある馴染みの場所だが、西部劇に出てきそうな小さな町という印象で、そこに宇宙基地という情報は、何か現実離れして感じられた。しばらくの間、誰かが研究発表で大風呂敷を広げすぎると、「それは、大樹町に宇宙基地みたいに聞こえる」と揶揄されたりもした。あれから30年。いまや大樹町にはJAXAをはじめ航空宇宙産業の拠点があり、ロケットも打ち上げられている。学生時代の見識の浅さを反省させられる。

 最近は、紙媒体の全国紙も読むが、スマホにダウンロードしたニュースアプリと呼ばれるものを使い、巷のニュースをチェックする。注意が必要なのは、画面に表示されるのは、より多くの人がチェックした情報が上位に位置するということだ。目立たないが重要なことを見逃す危険が高い。私は、「大樹町に宇宙基地」的な情報を知るために、上記アプリの、様々な新聞のヘッドラインを見ることができる機能を使っている。入手可能な範囲は限定的だが、地元神奈川と東京の新聞、沖縄の新聞、そして海外紙の情報を見る。私はそれらを、勝手に辺境情報と呼んでいる。最近、本当に大事なことは、多くの人の関心が反映されている総括的見出し一覧には、即座には登場しないと確信する。種子法廃止、水道法改正、漁業法改正も総括見出しにはなかなか登場せず辺境情報から知った。スマホ画面で辺境情報の並びを眺めていると、それが旧約の預言書の並びに似て見えてくる。 (中沢麻貴)