牧師室より

 アンゲラ・メルケルの講演集が届いた。『わたしの信仰 キリスト者として行動する』(新教出版社2018である。彼女はキリスト教民主同盟の党首で、かつドイツの首相13年目)を務める政治家だ。メルケルの父親はルター派の牧師である。東ドイツの出身であり。ドイツの統合前は、物理学者として働いていた。

日本でメルケルの名が知られた事件はいくつがあるが、その一つは原発政策の転換だ。2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故で、ドイツ国内で脱原発の機運が高まったことを受け、同年530日の段階で、「2022年までに国内17基すべての原発を閉鎖する」という方針を打ち出したことで知られる。驚きなのは、それまでキリスト教民主同盟は原発推進派であった点だ。このことについては、日本のジャーナリストが本にしている(『なぜメルケルは「転向」したのか』熊谷徹)

 もう一つはシリア難民を受け入れたことが大きいだろう。しかしこの件はドイツでは受け入れられず、彼女は政治家の引退を表明している。

 第29回ドイツ福音主義教会大会での講演から紹介する(2001)。メルケルは、ヤイロの娘と婦人病を患う女性の話(マルコ5:2143) の解き明かしをしている。彼女は講演の最後に、この物語が好きである理由を3点挙げている。一つ目は、「この物語では、すべての人が努力しています。娘を助けようとする両親も、彼らのそばにいる親戚の人たちも、医者から医者へと訪ね回る女性も。それで良いのです」と。二つ目は、「この話が生と死の境界線を扱っていることです」と。三つ目は、「最も実存的な状況においてイエスが示す厳格さ、明瞭さ、素早さ、そして言葉の少なさは模範的です」と。そして講演をこう締めくくります。「わたしたちの人生には限界がありますが、生を形作れという命令も受けています」「(「広い空間」=地上は)責任ある人生形成のためにあるのです」と。 

もはやこれは講演ではなく、“説教”ではないだろうか。(中沢譲)