牧師室より

先週の説教では、戦時中の無責任な指導者たちの姿を、今日の権力者たちにも見ることができるという話をした。政治家や(軍人を含む)官僚が書類を処分したり、偽造したり、部下に責任を押しつけて犠牲を強い、自分だけは生き残りたいという権力者の自己保身の姿勢が、脈々と受け継がれてきたのではないだろうか。そのことに確信を深めた夏であった。

「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)というニュース番組に、「そもそも総研」というコーナー(担当は玉川徹氏)がある。『ハゲタカ』という経済小説の作者、真山仁氏への取材が面白かった(816日放送)。現在放映中の同名のドラマの宣伝なのであろうが、私には刺激的な取材であった。

 小説『ハゲタカ』は、2004年刊行の作品だが、舞台は20世紀の後半の時代(バブル崩壊後)から始まる。作品中、「失われた10年」という言葉が使われているが、玉川徹氏は、2018年の今、「失われた10年」は、「失われた30年」になりつつあるのでは、との疑問を作者にぶつけた。真山氏は、「バブルがはじけた日本は、初めて『自分たちの組織に自分たち自身でメスを入れる』という必要にかられた。しかし、『人員と経費を削減する』という最も簡単なことしかしなかった。それが後の低迷を招いた原因ではないか」と。また企業には「生き物と一緒で、“寿命”というものがある。命が果てようとしているものを無理やり延命させてしまうと、多くの人に不幸をもたらす結果となる」とも語り、かつては米国を代表した航空会社「パンアメリカン」を例に挙げて説明する。「パンナム」の経営が傾いた時、国はそれを救わなかった。なぜならば、「すでにパンナムの寿命は尽きている」と国は認識したからである、と。ところが「日本だと、企業に公的資金を注入して延命を図ったりする」と指摘する。つまり「日本人が潰せなかった『潰すべきもの』を潰しているのがハゲタカである」「日本企業の最大の弱点は『内側から変われない』ということなので、変革を実現するには『外圧』が必要」との認識を示し、日本再生の希望を、“ハゲタカ”(外資系投資ファンドの異名)に託したのがこの作品とのこと。

しかしながら、「潰すべきもの」は、もっと前から存在したのではないだろうか。「外圧」のはずであったGHQは、“それ”を完全に潰さず、日本社会もまた「潰せなかった」。「失われた」のは日本の経済だけではない。日本の現状は、「潰すべきもの」を潰せなかった結果なのだと、強く感じている。     (中沢譲)