牧師室より

狭山事件に新しい動きがあった。第3次再審請求を行っている弁護団が、新たな筆跡鑑定を東京高裁に提出したのだ(2018116日)。問題になっているのは、被害者宅に届けられた脅迫状の筆跡である。  

以前の捜査機関の鑑定では、脅迫状と被告とされた石川一雄氏の筆跡とが一致したとした。その結果、この鑑定は石川氏を有罪にする有力な決め手となってしまった。

今回、弁護団が鑑定を依頼したのは、東海大学の福江潔也教授(工学博士)。福江教授の鑑定方法は、コンピューターで文字を画像として読み取り、文字の線を座標上の数値で表し、形が似ているかどうかを比較するもの。福江教授の鑑定によると、脅迫状の筆跡と石川氏の筆跡は形が大きくずれていて、99.9%の確率で別人のものと考えられる、という結果となった。

福江教授によると、従来の筆跡鑑定は、見た目で文字の特徴を比較する手法が中心だったという。「今回はコンピューターが客観的に判断したのが最大の違いだ。ずれを見ると別人が書いたと考えなければ不合理だ」と話している(NHK web

狭山事件とは、1963523日、石川一雄氏(当時24歳)が、強盗強姦・強盗殺人・死体遺棄・恐喝未遂等の罪で逮捕され、起訴された事件である。石川氏は被差別部落の出身であり、逮捕時は鳶職の手伝いをしていた。一審では全面的に罪を認めたが、一審の死刑判決後に一転して冤罪を主張。その後、無期懲役刑が確定して石川氏は服役したが、1994年に仮釈放されて現在に至っている。

 横浜に赴任する以前は、毎秋、石川一雄氏を招いて集会を行っていた。主催は、解放同盟荒川支部を中心にした実行委員会で、私も実行委員会のメンバーの一人であった。ある時、石川氏はこのような話をした。服役中、ある刑務官から、「石川、悔しければ、字を覚えろ」と言われたそうだ。刑務官の給料が9千円の時代に、刑務官とその伴侶が相談して、2千円を石川氏の教育費に充てたという。当時から、石川氏の無実を信じ、支える人たちがいたのである。

 今回の新たな筆跡鑑定の提出で、再審請求が受理され、一日も早く、石川氏の無罪が確定することを願っている。        (中沢譲)