◇牧師室より◇
漫画の話題である。『血界戦線』という作品がある。読むことはお薦めしない。場の設定はこうだ。ニューヨークの町が突然異界とつながり崩壊。異界の住人と人間が混在するヘルサレムズ・ロット(Hellsalem's Lot)が誕生する。日々テロが起こる異常な世界で、均衡を維持するために主人公たちが戦うという設定だ。紹介した理由は、「ヘルサレム」という町の名が、エルサレムのもじりだと思えたからだ。
エルサレムには「神の平安」という意があると言われる(他説あり)。平和の町が、「ヘル(地獄)の町」となり、テロが日常化する。そしてその町は、かつてニューヨークと呼ばれていた……。
この設定を思い出させてくれたのは、米大統領トランプ氏だ。彼はイスラエルの首都はエルサレムだと宣言した(12月6日)。それに伴い、現在テルアビブにある在イスラエル米国大使館をエルサレムに移すと発表している。実は米国議会は、すでにエルサレムへの大使館移転を1995年に決めていた。しかしこれまでは大統領令によって半年ごとに延期の手続きをしてきたのだ。トランプ氏も1回だけ手続きをしている。
エルサレムは、ユダヤ教だけでなく、イスラム教、キリスト教にとっても聖地である。それゆえに微妙な問題を抱えており、国々は均衡を保つための努力を重ねてきた。しかしトランプ氏は、イスラエルに全面的に肩入れすることを宣言することで、中東和平に尽力することを放棄したようである。その結果、すでに米国内ではテロが発生し、中東では反米デモがはじまっている。
アブラハムは「諸国民の父」と呼ばれている。彼によって全ての民が祝福に入れられたからだ。聖書に学ぶ姿勢があるならば、エルサレムが「神の平安」と呼ばれるのにふさわしくあるよう、すべての勢力は努力すべきなのだ。 (中沢譲)