牧師室より

 新年度を迎えました。私たち二人の牧師が横浜港南台教会に招聘されて4年目の春になります。主の十字架に思いを巡らしつつ、私たちの教会が与えられている意味を問いながら、皆さんと共にあらたに歩み出したいと願っています。

 さて、『讃美歌21』には、受難節の讃美歌がいくつか収録されていますが、その中で、私が子どもの頃から心惹かれる歌があります。『讃美歌21』では311番。1954年版の『讃美歌』にも収録されていました。詩を書いたのは、ドイツ人のパウル・ゲルハルト。詩人であり、牧師でもあった人です。ある讃美歌研究者が、こう紹介していました。「ルターのドイツ語聖書とグリム童話とゲルハルトの讃美歌、この3つがドイツで一番愛されている詩文だと言われている」と。

 日本でも愛されている「アルプスの少女ハイジ」の原作『ハイジ』(ヨハンナ・シュピリ作1880年)に、目の見えないペーターの祖母に、ハイジが繰り返し讃美歌を読む場面が出てきます。この作品には三つの讃美歌が収録されていますが、ペーターの祖母とハイジが大好きなのは、「お日さまの歌」という讃美歌。これはゲルハルトの詞によるものです。

 喜びに満ちる金色の光は、

その輝きに乏しい私たちに

よみがえりの光を注ぐ。

(中略)

神の救いとみ恵みは、

正しく誤ることがない。

私たちの心の痛みをいやし、

私たちをこの世においても、

また永遠においても支えたもう。

十字架も苦しみも、

もはや終わろうとしている。

わき立つ波は静まり、

ざわめく風もなぎとなり、

希望の光は照り輝く。

喜びときよらかな静けさ、

これこそ天の園にあって

私が待ち望むもの。

私はそこに思いこがれる。

詞:パウル・ゲルハルト(1666)

訳:高橋竹夫(松本聖書福音教会牧師)

 ハイジは、早くに両親を失っていますが、原作者シュピリも、一人息子と夫を相次いで失った経験があります。ゲルハルトの詩に、シュピリは光を見たのでしょう。ペーターの祖母が、ハイジの詞の朗読を聞いて涙ぐんで頼む場面があります。「もう一ぺん聞かせとくれよ、ハイジ、もう一ぺんね。『十字架も苦しみも、もはや終わろうとしている』って」。

 ゲルハルトが311番の詞を発表したのは1656年。彼の子どもが亡くなった年でもあります。ある研究者は、悲しみの中から生まれた詞だと指摘しています。それゆえに、歌う者の心を捉えるのかもしれません。

  (中沢譲)