牧師室より

レント(受難節)を迎えた。イースターから46日前の水曜日を「灰の水曜日」と呼ぶ。その日から6回の日曜日を除く、イースター前日の土曜日までがレントの期間である。

 ゆえにレントは、40日間あるのだが、「40日」という数字は、モーセやエリヤ、そしてイエスの断食した期間と重なる。その意味で、聖書の世界では象徴的な数字である。レントは、早い年では24日、遅い年でも310日にスタートする。毎年、スタートの時期が異なるのは、太陰暦による行事のためだ。

 レントの期間を40日とした最初の言及は、ニケア公会議(325年)の記録に見られる。西方教会では、7世紀以降に40日間と決められた。イエスの荒れ野での断食を分かち合うため、この時期、肉、乳製品、酒類を断ち、結婚式などの祝い事を避けるしきたりが長く続いたそうだ。

 話は変わるが、本日歌う讃美歌298番「ああ主は誰がため」は、アイザック・ウォッツという牧師による作詞である。彼は「イギリスの讃美歌の父」とも呼ばれている人物だ。この讃美歌は日本でも愛され、『讃美歌1954年版』『讃美歌21』に収録されている。米国の盲目の女性詩人ファニー・クロスビー(1820-1915)は、この讃美歌の歌詞に出会って回心したという。ちなみに彼女の詩は、1954年版に8編も収録されている。「きよき岸べにやがて着きて」(489番)、「イエスよ、この身をゆかせたまえ」(495番)、「われに来よと主は今」(517番)などである。

クロスビーは、救いを求めて教会に通ったが、願っていた喜びは見いだせなかったという。そしてある日、その日の集会でだめなら……と諦めかけていた時、会衆が「ああ主は誰がため、世にくだりて…」と、歌いはじめたという。彼女はその時の感動を自伝に記している。

「『この身をささぐるほかはあらじ』という箇所に来た時、私の魂は天の光に満たされた。私ははじかれたように飛び上がって、『ハレルヤ』と叫んだ。その時私は、初めて、それまでの私が、片手でこの世にしがみついたまま、もう一つの手で主にすがっていたことに気づいたのだ」と。讃美歌にも、人を救いに導く、希望の力があることを知らされる。

           (中沢譲)