牧師室より

新しい年を迎えた。

 森本あんり氏(国際基督教大学教授)が、『世界』1月号(岩波書店)に、ノーマン・ヴィンセント・ピールという牧師についての記事を書いている。興味深い内容だったので紹介する。ピール氏はニューヨークの改革派教会の牧師を50年以上務め、教会で行っていたカウンセリングを、ビジネスへのアドバイスへと拡大させ、全米に知られるようになった人物だという。1952年に出版された『積極的考え方の力』(邦題)は、米国内だけで500万部を売り上げ、日本でもロングセラーとなっている。

 内容は簡単で、「自信を持ちなさい」ということ。「ポジティブ・シンキング」という表現は、ピール氏によるものだと森本氏は言う。ピール氏は、方法論を聖書に求めている。たとえば、大事業をはじめようとしている人には、「わたしを強くして下さるかたによって、何事でもすることができる」(「ピリピ人への手紙」4:13 口語訳)という聖句を、仕事に出かける前に3回読むことを勧め、また販売成績に悩むセールスマンには、「もし、神がわたしたちの味方であるなら、だれがわたしたちに敵し得ようか」(「ローマ人への手紙」8:31b口語訳)という聖句を、何度も唱えて覚えるようにと勧めたそうだ。

 どちらもパウロ書簡である。私も、パウロの言葉は、カウンセリングに向いていると感じたことはあるが、本当に実践している人がいるのを知って驚かされた。

 森本氏はこの記事の中で、大陸系(欧州)のカルヴィニズム神学と、米国系のそれとの大きな違いを指摘する。大陸系は、神と人間との関係を「片務契約」、すなわち神の一方的恵みと理解するが、米国系は「双務契約」、すなわち神と人間は相互に契約履行の義務を負うと理解しているというのだ。ここには大きな違いがある。米国的カルヴィニズムは、神は正しい者を祝福し、悪い者を罰するという「因果応報」的理解に立っていることになる。この発想が、米国を「世界の警察官」たらしめてきたのである。「勝ち組」の論理である。

 そしてピール氏が、「自分の最高の弟子」と称賛した人物が、ドナルド・トランプ氏である。トランプ氏が事業に成功したので、神の祝福を得たと考えたからだ。   (中沢譲)