牧師室より

 まだ残暑は続いているが、今年の夏も終わりに近づいたと感じている。

私にとって、この夏の大きなイベントは、オリンピックではない。参院選であった。共産党が呼びかけた野党共闘も、小林節氏の「国民怒りの声」も、見事に敗れた。今回の選挙から投票権が18歳以上に変わった。総務省の発表(711日)によれば、新有権者の投票率は45.5%(全体の投票率は54.7%)で、予想外に高かったと言われている。しかし彼らの投票行動が、選挙結果に与えた影響は、少なかったとも言える。

口の悪い寺島実郎氏が、雑誌の連載記事で、「日本の政治的意思決定は、『老人の老人による老人のための政治』となるであろう」と書いている。(「脳力のレッスン」『世界』9月号)。

彼は一つの例を挙げている。6月に英国で行われたEU離脱を問う国民投票のことだ。この投票で20代の若者の66%はEU残留を支持したが、43歳以上の年齢層は離脱派が過半数を占めたというデータから、こう語る。「未来により責任を担う若者が欧州共同体の中で生きることを期待しているのに、老人たちがその道を塞ぐ選択をした」と。

英国で起きた事柄は決して他人ごとではない。アベノミクスの継続を期待する日本の高齢者層にも、同じ問題を指摘することができる。そしてそのことが、若者の貧困や沖縄の切り捨ての原因にもなっている。

しかし気持ちを切り替え、憲法改悪の動向に目を向けざるを得ない。

ある雑誌に、吉永小百合氏と姜尚中氏の対談「『新しい戦前』回避するために」(『女性自身823日・30日合併号』)が掲載された。(吉永)[(はじめてお会いした時に私は)姜先生に、こう質問しました。「『憲法9条を守ってほしい』と友人に言ったら『よその国が攻めてきたらどうするのか』と言われて、言葉に詰まってしまいました。なんと返せばよかったのでしょうか」って。姜先生は、「あの天文学的な軍事力を持っているアメリカでも、9.11のテロを防げなかった。だから日本も、アメリカ以上の軍事力を持たないと、武力で抑止するのはむずかしいし、それは不可能。憲法9条を持っていることのほうが、より安全を守れるんですよ」と答えてくださったんです]とある。

 北朝鮮のミサイルや、中国の尖閣諸島への介入などを口実に、国防力の強化や、沖縄の基地の必要性を声高にする勢力が跋扈している。しかし国を守るのは軍隊ではなく、政治の力である。その政治を支えるのは平和憲法以外のなにものでもない。

   (中沢譲)