牧師室より

『信仰にもとづく抵抗権』(渡辺信夫著 いのちのことば社発行)という書が出版された。著者の渡辺信夫氏は1923年生。日本キリスト教会の牧師であり、かつ私がもっとも尊敬する“神学者”(神学部・神学校では学んでいない)の一人でもある。

 彼はクリスチャンホーム出身だが、両親は神社参拝をしてもよいと教えていたという。「学徒出陣」で徴兵され、海軍兵として戦争を経験している。その戦争体験が、戦争責任と信仰における抵抗権について考察する動機となったようだ。

 渡辺氏は、カルヴァン『キリスト教綱要』の翻訳者としても知られているが、カルヴァンの抵抗権論をこのように紹介している。「神は世界に二種類の統治を立てておられる。一つは、『教会』によってなされる霊的統治、もう一つは、『国家』の地上的権能によってなされる政治的統治である。この地上的権能も神の定めによるものであるから、神を信ずる信仰をもって従わなければならない。だが、無条件に服従すべきだというのではない。神の言葉また戒めに逆らうことを命じられる時には、抵抗できる。あるいは抵抗しなければならない」と。そしてこの抵抗権論は、渡辺氏自身の論でもある。

 このカルヴァンの国家理解は、キリスト教界では支持されている見解かもしれない。私自身、T神学大学でそのように学んだからだ。私個人としては、「国家は神によって立てられている」という論には与したくない。「信仰にもとづく抵抗権」については賛成である。

 この書の見どころは、著者が表現するところの「第二の敗戦」(=3・11)への洞察である。「原発事故」「人災」に対し、国は「原罪を認めて深く内省」したのではなく、「むしろこの機会に日本を戦争のできる国」に戻しつつあることが、著者の執筆動機だと思われる。

 つまるところ、この書は渡辺信夫氏による安倍政権への抵抗権発動宣言であるのだ。         (中沢譲)