牧師室より

 子どものころ、ルース・S・ガネットの『エルマーのぼうけん』が愛読書だった。9才の少年エルマーは、親友の年取った猫に頼まれて、どうぶつ島に捕らわれている竜の子どもを助けに行く。旅立つ彼のリュックサックに入れられていたのは、そのとき家にあったミカンや虫眼鏡や棒付きキャンディーやリボンの切れ端である。エルマーが急いでかき集めたそれらのものが、竜を助けるために役立っていく。ジャングルの島で次々と出現する猛獣に対処するために、銃や刃物のような武器ではなく、棒付きキャンディーやリボンの切れ端を役に立たせ、交渉術で危機を切り抜けていく少年の姿を子どもに語るガネットは、今も私にとって素敵な尊敬する作家だ。(いらだつライオンを、リボンの切れ端でなだめる方法を知りたい方は、ご一読を。)

 学生時代、深い森の中で、終日野鳥を追跡しながら調査をするようになった。営林署や大学が管理する森の中、調査機材や簡易テントをリュックに入れて一日中森を歩き回った。雪が降っても山スキーをはいて、一人で森の中を調査したこともある。アウトドア用品など買えない貧乏学生のリュックの中には、非常食の乾パンの他には、食料としてキュウリや魚肉ソーセージや百円缶詰が入っていた。日の出前に急いで作ったおにぎりとそれらで、日没まで歩き回って調査していた。アウトドアでは飯ごう炊さん、というイメージの方もあるかもしれないが、調査に入っていた森は山火事防止のため火気厳禁のうえ、移動する鳥を追跡しているので立ち止まることすら容易ではなく、キュウリをかじって熱中症を防ぎつつ、魚肉ソーセージやおにぎりでお腹を満たしたが、途中で見つけた山菜やキノコは、ありがたくお土産に頂戴していた。ちょっぴりエルマーに近づけた気がしていた。

 大きな災害があると、緊急時に備えて何が必要かという議論が起こる。なるべく万全の備えを、と考えることは大事だ。けれどもその一方で、目の前にあるもの、とりあえず持っているもので、どう創意工夫して対処するか、という発想が乏しいと、苦しさが増すように思う。エルマーには友情と創意工夫と交渉術があった。被災地のエルマーを見出し、応援したいものである。 (中沢麻貴)